この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

二人の結論

(咲夜&火津彌)

骨牌/咲夜 > (人の少ない兵舎の窓の外をなにも知らぬ顔で蛍が飛び交う。無事に協定がなったこともあり大戦の功を労うべく帝國軍には束の間の休みが許されていた。大戦を生き残った軍人たちは晴れやかな顔で故郷に錦を飾るべく荷物を纏め土産物を持って宿舎を後にしていった。しんと静まり返る宿舎に灯る明かりはない、けれども兵舎に連なる医務室の窓だけはこの時間も煌々と明かりを放っている。風に乗って聞こえる苦痛に満ちた呻き声、咲夜は兵士たちを見舞い、ひとりひとりに慰労の言葉を掛けてまわった後で、何かに導かれるように医務室の隅の寝台へと歩み寄っていた。杖を壁に立てかけて染みのない真っ白な敷布を指で撫でる。協定に向かう前、この場で告げられた言葉を思い出す。噛み締められた唇から血潮と共に吐き出された言葉は呪詛に似て、咲夜という魔術師に言葉を失わせた。ただあの時は、その命の一端を受け入れることしか出来なかったが、こうして雷紋の消えた白い手を見ていると彼に告げなければいけない言葉があるのもまた真実だった。咲夜は近付く足音に顔を上げると長い睫毛の下からそっと伏し目がちに貴方の姿を見上げた)   (7/3 00:43:27)
骨牌/咲夜 > ……来たか、こんな時間に呼び出してすまないね。返事をせねばならないと思ってね、あぁ場所はここでよかったかい?   (7/3 00:43:35)


〆鯖/火津彌 > (ここに来るのは何度目になるだろうか。戦のたびに足を運んできた医務室であったが、今日の足取りは少し重い。……悲しいわけではない。ただ、ちょうど直近にここに寄った時、あの日の事が思い出されて、軽やかに爽やかにというわけにはどうしてもいかなかった。細い絹糸で心臓を締め付けられるかのような複雑に絡まった心情は、持ちうる言葉の範疇を超えて、ああ、なんと言えばいいのだろう。無力感…それも違う。燃えるような赫怒ならば『やりきれない』の言葉だけで、充分だったろうに。)「……この度はお疲れ様でございました、咲夜様。」(恐らく歴史に残るであろう戦いを終えたというのに、出てくるのはそんな月並な言葉だけ。笑え、月光。我らは勝ったのだ。笑えているだろうか、うまく取り繕えているだろうか。)「……とんでもございません。どこへなりとも駆けつけます。……仰せのままに」   (7/3 00:56:09)
〆鯖/火津彌 > (軍帽を脱ぎ敬意を表したけれど、こちらを見つめる伏し目がちな白い睫毛の緩慢に動くのを見れば、あの時と同じように傅くのを少し躊躇してその場に立ち尽くし、目を逸らした。『許さん』と言われればそれまでだ。どうか答えなど聞かせず、私の一方的な誓いを全うさせてほしいと思った。複雑に絡んで処理しきれない想いは、もう忠義という箱の中に押し込める他、どうすればいいか解らないから。)   (7/3 00:56:16)


骨牌/咲夜 > (はぁと溜息が唇から零れ落ちた。まるで人が変わったかのような毒気の消えた火津彌の首相な態度には、狐に摘ままれたような気分を味わってしまう。貴方を助けたことに後悔はない、自分で決めて行動した結果であるから仮にそれで命を落としていたとしても恨みなどなかっただろう。それを今此処で告げたとして、貴方に真名を口にさせる程の後悔を味合わせたという過去が変わることはない。感謝の言葉と先の戦いの奮闘ぶりを労うめに呼び出した筈が、顔を合わせれば小言ばかりが口をついてでようとしてくるのだから貴方と咲夜の関係は簡単には変われないものなのだろう。貴方の泣き笑いのような顔から視線を逸らす、その顔についた傷を男振りをあげたななどと笑い飛ばせるような立場にはない)   (7/3 01:33:09)
骨牌/咲夜 > えぇ、本当にお疲れ様でした。お前様の働きぶりは色んな所から報告があがっているが、わたしからも一言告げねばと思ってね。あぁ、……わたしはね、お前の忠誠なんて今更いらないんだよ。軍でこれ以上偉くなる必要がないからね。それにこれまでだって色んなものを背負って歩いてきた、これ以上重いものを背負わせないでおくれ。お前は、(まずは当たり障りのない話で気まずさを濁そうとするものの、次第にその言葉は小言へと変ってゆき、眦を鋭くして無意識に敷布を握りしめていた。大きな波をたてる衣擦れの音に、咲夜は少しばかり理性を取り戻すと、なぜ伝えたい思いを言葉にできないのかと忌々しいと言わんげに手元を見詰めて、今度こそしくじるまいとゆっくり一音一音を気にしながら言葉を紡いだ)   (7/3 01:33:38)
骨牌/咲夜 > お前は、自分らしく生きていいんだ。……そう、お前はお前らしく生きていいんだ。なんだそのしみったれた顔は、小憎らしい佐官殿はどこへいった?(口にした言葉はなぜか自分の胸に深く突き刺さる。それは貴方が自分によく似ていると感じていた相手だから。貴族の名門に生まれ姉の影に怯えていつも姉の姿を映すように振舞ってきた自分と、遊郭産まれのご落胤である貴方とはなにもかもが違うはずなのに、まるで自分に言葉を掛けているような気持になる。貴方には貴方のまま生きて欲しい、その思いを叶えるための言葉はこれしかないのだろう)……月光といったな、お前の真名は。わたしの真名を教えてやる、いいかい、一度しか言わないから聞き逃すなよ。(そうして息を整えると、両手を伸ばして貴方の顔を強引に引き寄せると、銀灰色の双眸を見開き、まっすぐにその瞳を覗き込んだ)――香々夜、十種だ。わが家の当主は代々、この名前を継承する。私の次の当主もこの名前だ、わたしはお前の人生を背負うなんてまっぴらだ。お前がわたしを背負っていけ。   (7/3 01:33:57)


〆鯖/火津彌 > (『お前の忠誠なんて今更いらないんだよ――』素っ気なく放たれた言葉に、ざわついて仕方がない心が、ばくばくと跳ねた。言わんとって下さい、それ以上、言わんとってください。――その言葉は言葉になることなく、腹から胸へ、喉へ、そしてまた、下へ引っ込んでいくようにぐるぐると火津彌の中を駆け回った。ようやく何かが絞り出されようと掠れた息が漏れたところで、雷紋のなくなった己の手を見つめるあなたの言葉がゆっくりと、響いた。)「……っ……」(『自分らしく生きていいんだ』その言葉を耳にして初めに覚えた感情は、ただただ純粋なる安堵であった。胸のつかえが下りるような感覚に、肺から煙を出す時のように深い息を吐き出した。あるいは、ぷっつりと糸が切られるような。あるいは、川の堰を切るような。混乱も動揺も覚える余裕はなく、単一でむき出しの、子供のような感情が溢れ出して止まらなかった。父親に叱られた後母親に優しく慰められたりするのは、こんな感覚なんやろうか。優しさも、厳しさも、どちらも、今の火津彌にとってはどうしようもなくかけがえのないものに思えた。ずっと、そんな風に言ってほしかった。   (7/3 02:00:52)
〆鯖/火津彌 > 『死んだ妹のかわり』でもなく、『父親の変わり』でもなく、『鬼灯の跡継ぎ』としてでもなく、自分らしくと、そう誰かに言われたかった。――『あなたは、生きていてええんです、母さん。』 かつての光景が脳裏にフラッシュバックして、ぺち、と勢いづいた音を立てて軍帽を持たないほうの左の手のひらで口元を覆った。こみ上げるものをこらえようと小さく俯き、どうにかあなたに顔が見えないようにと無駄な抵抗をしてみるも、重力に負けて溢れそうになるものを溜めようと今度は軽く上を向いた頃には、もう隠しようがないと諦めて。喉をこくりと上下させ、口を覆う手のひらが、人差し指から順に濡れた。)「……すみ、ませ……っ…も、もうし、わけ……。……っ……」(ぎゅっと目を瞑ると、睫毛から水滴が弾き出される。おどおどと首を後ろに向けてみたり、所在なげに空足を踏んでみたり。隠れるところがないか、隠すものがないかと落ち着きなく目を下へ彷徨わせ、手に持っていた軍帽に気づくけれど、それをかぶり直す勇気もなくて。諦めたように軍帽を持った手を前に組んで、軍人らしい直立不動のまま頭を垂れた。ぽたり、ぽたりと床に小さな水たまりができてゆく。)   (7/3 02:01:08)
〆鯖/火津彌 > 「……っは……。……お、お見苦しい、ところを……申し訳ありません、咲夜様。」(鼻声で、あなたの名を呼んだ。親指の延長線上にある手のひらの付け根の膨らんだ部分で小鼻を擦れば、ず、と鼻のすする音がした。火津彌のその呼び声を受けてなのか、次に息を整えてぬれた顔を引き寄せられて――真名は告げられた。背負えと言わんばかりに。)「………十種、さま。」(その真名を耳にし、思い返されるのはかつての狂い水で部下と共に成した長い長い詠唱。ふたつの鏡、一つの剣、四つの種、三つの比礼。十種の神寶に祈りを込めた古く伝統的な魔術だった。死人さえ蘇らせる程の呪力を発揮するという、その神器。あぁ、そんなに多くのものを抱えて、あなたは生きていたのか。さぞかし、さぞかし重かった事だろう。)「……はい……はいっ……」   (7/3 02:01:16)
〆鯖/火津彌 > (こくこくと頷いた。『ひと ふた み…』と数えるたびに、過去と未来を写す鏡、戦わねばならぬ宿命、そのお身体では残せるかどうかわからぬ種、ぎらぎらとした香々夜の高名、貴族であらねばならぬこと。その”皮肉な神器”のひとつひとつを、あなたは数えていたのか。そんなあなたの武器になる、と。『あなたの武器として役目を全うする』その言葉は、十一個めの寶をあなたに背負わせる事を意味していたんだと今更ながらに思い上がった自分を恥じた。)「……へへ。……その、お言葉……あんたにも、返したりたいですわ。……生きてくださいよ、中将。何が永遠の命ですか、屍兵になった中将なんか、見たくありませんから、僕。……活きて下さい、命のある間に、活きて、そして死んでください。」(にへ、と眉尻を下げて、いかにも憎たらしく楯突くような言葉を吐いた。)   (7/3 02:01:22)

骨牌/咲夜> (『自分らしく生きる』その言葉の難しさを自分は一番よく知っている、成りたいものになれなかった辛さも悔しさも嫌というほどに味わってきた。人の上に立つ者として此の世に生を受けた瞬間から、一族の理想として生きてゆかねばならず、星明りすら見えない暗い海を藻掻いて足掻いて、そして何が正しいのかも分からないまま今はこうして此処に立っている。密談を持ちかけた時も、神島を攻めた時も、協定を結んだ時も、貴方を失いかけた時だって、本当は足が震えてしまいそうなほど怖かった。この選択を取るのが正しいのか何時だって不安だった、そんな恐れと不安が貴方への厳しい態度となって現れていたのだろう。いつだって彼女ならきっとこうすると考えて、弱気な自分を押し隠し、強気な自分を演じて生きてきた咲夜にとって、貴方に掛けたこの言葉がある意味では『咲夜』という人物が初めて口にした言葉だったのかも知れない。自分らしく生きろ。心身共に弱り切って何かに取り憑かれたように自分を見つめる貴方の瞳は、咲夜の知っている火津彌ではなかった。このままではきっと貴方が壊れてしまうと思った、だから……。   (7/4 20:09:03)
骨牌/咲夜> これまで抱え込んだ様々な感情が腹の奥で淀みとなって溜まっていたのだろう。涙を堪えようとする瞬きも、真っ赤に充血した双眸を隠すことは出来なくて、頬を流れ落ちる透明な滴は診療室の灯を反射して宝石のように光る。それを見て――あぁ、この男もつらかったのだなと感じた) もう謝るな……、失敗したっていいじゃないか。部下のしくじりを補うのもわたしの役目だ。お前が美虎を攻めた時だって本当は少し感心したんだ、帝国軍でこの咲夜に逆らおうだなんて奴はそうはいない。結果として失敗してしまっただけの話で、あれは敵があっぱれだった。まさか密約を結んでおきながら大陸に残るとはなぁ。   (7/4 20:10:40)
骨牌/咲夜> (ぽつりぽつりと嗚咽に混じって紡がれる何度目かの謝罪は貴方の後悔を強く感じさせ、両手を頬に添えたままゆっくりと首を横に振ると当時の出来事を思い出し苦笑した後に「だが美虎は取ってやったぞ」と付け加えた。この言葉は冗談ではない、美虎攻城を失敗した貴方に自分の力を見せつけたくて、協定の条文に後から付け加えた一節なのだから。我ながら子供染みているとは思うけれど、貴方の存在があったからこそ成し得たこと。そして……、咲夜は見開いた瞳を伏せる。あの人の存在があったからこそ今こうして貴方に『自分らしく生きろ』と伝えられたのだろうと。誰にも知られず醜く足掻き続けた生き様を、誰かに褒めて欲しかったなんて可愛いらしい感情、決して誰にも伝える気はない、特に自分を慕う貴方には。子犬のように必死に首を縦に振る貴方の姿に眦を緩めて両手をおろすと、ぎゅっと硬く握りしめられたまま形を失った軍帽へと僅かに視線を移す。こんなにして、という前に耳朶に触れた貴方の言葉は、小憎らしさのあるいつもの調子で思わず微笑みが零れた)   (7/4 20:11:02)
骨牌/咲夜> ……まったくお前という奴は。協定もなったことだ、ヨズアも当分の間は動けぬだろうから軍も暇になる。そうさね、火津彌お前暇だろう? ちょっと王国に偵察に行ってきたらどうだ。今なら大手を振って王都を歩けるぞ、序でに嫁でも探してこい。生い先の短いわたしと三献の儀を結ぼうたってねぇ、お前鬼灯家の嫡男だろ。こんな身体だ、跡継ぎを産んでやることはできないよ。   (7/4 20:11:58)
骨牌/咲夜> (泣き笑いのような貴方の顔を見て笑みが深くなるけれど告げられた言葉には何も言えなかった。鬼灯家の業を背負って生きる貴方に、香々夜家の業まで背負わせてしまう形になってしまったことは果たして正しかったのか。親から与えられる真名すら自分のものではない、同じ天命を引き継ぐ一族の宿命の一端を貴方に預けたのだ。永遠などありはしない。けれど、その名に不死を背負う。命のある間に、生きて。言葉の間に託された貴方の祈りに果たして応えられるだろうか。自分がいなくなったら悲しむ人がいる。ならばせめてあとに残すものが欲しい、そう願うが、魔術で延命されたこの命に次代に託せる活力はあるものか、そもそも不遇のこの身では望めないかも知れない。自分でつけた咲夜という字が今は恨めしかった。その名は呪いにも似て、あとどれだけ生きられるものか。わたしが死んだら屍すら残さず消えるだろう、そうとは告げずにただそっと眩いばかりの月を仰いだ)〆   (7/4 20:12:10)