この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

Period

(ライラ&アスラン)

〆鯖/ライラ > (渡りに船とはこの事だ。帝都の沿岸で盗んだ一隻の小舟が、まだ無事に残っていたのは幸運だったと言えるだろう。シュクロズアの末路を見届けてライラとて黙ってはいられなかったけれど、王国側と帝国側、二國の軍勢を相手にしては命が幾つあっても足りないと考えた。シュクロズアは、ヨズアの虹は、初めて目の当たりにした偉大なる王は、生きろとそう言った。まだ混乱を極めるシントから逃れるようにして、師の手を引いて宵闇の中船を出そうと決めたのは、ライラであった。)「……夜だからあまり沖に出過ぎないように、ゆっくり行きましょう。幸い波は凪いでくれてるわ。」(進む気があるのかないのかと言った緩慢な動きで、櫂を手にしながらライラは言った。それでもゆっくりと離れてゆく島を、見返るようにして肩越しに見詰める。たった一つの故郷であり、ライラの唯一の子が眠る墓場。シントが戦禍に呑まれる様子は王の最期と同じくらいに、いや、もしかすればそれよりも心乱されるものだった。纏まらない思考と心のざわめきを落ち着かせるかのように何度が重い息を吐くも、今夜ばかりはもうどうしようもなさそうだった。)   (6/28 12:53:23)
〆鯖/ライラ > 「……古きヨズアの神……どうかこの島をお守り下さい。……ダー・ニト・ロロイ……」(口をついて出た気休めのような祈りは、その締め句で引っかかった。『自分は神ではない』と言い切った一人の魔術師。彼の人生とは、なんだったのだろう。そして自分たちシュクロズアリ旅団は、これから何を頼りにすればよいのだろう、と。ライラは、困ったように師の顔へちらりと目をやった。……やはり、まだ自分は幸運な方に違いない。師と呼べるものがシュクロズアその人しかいない旅団員も居ただろうに、少なくとも自分にはまだ彼がいる。きっと導いてくれるはずだと、どこか希うような視線をおくって。)   (6/28 12:53:44)


クノ/アスラン > (これから先、何処に向かっていくのだろう。使い古された小船に腰を下ろして、アスランは何度目かとも分からない問いを脳裏で反芻する。船底に落としていた視線をライラに釣られる形で上げて、少しづつ小さくなっていく故郷を見遣った。ライラが漕ぐ櫂が海面を波立たせる、その僅かな音だけが聞こえる中で口を開けずにいた。まるでその静寂を誤魔化すかのように身動ぎし、片膝を立ててその上に片腕を預けると、夕暮れの暗雲は何処に行ったのか雲一つない満天の星空へと視線を向け。黒い瞳を僅かに細めた。)   (6/28 13:56:13)
クノ/アスラン > 「⋯⋯幾星霜の時を照らす古き神々よ。主の威光を以て、我等が行方を照らし、導き下さい。」((これから先、何処へ向かうのか。アスランの胸中を占めるその問いは、この船の行先というよりは⋯自分と、そしてたった一人の弟子が歩んでいくべき道のことであった。神に願ってしまったのは、最早自分では答えが見つからないからであった。ぽつりぽつりといった声量で祈りを捧げて、近視の人が遠くにピントを合わせるかのようにきつく瞳を細めて黙り込んだ。暫くの沈黙の後、どこか諦めに似た感情を孕んだ溜息を吐き出すと丁度此方を見ていたライラに視線を合わせ、腰を持ち上げながら場所を変わるよう促した。)「⋯変われ。ここからは俺が漕ぐ。」((⋯⋯このまま何もせずに居るのは耐えられそうになかった。   (6/28 13:56:14)


〆鯖/ライラ > (あなたが腰を上げると、小舟のバランスが少し崩れて揺れた。落ちないように縁に手をかけた後、こちらへ来ようとするあなたと入れ替わるようにして生返事を返しながらもそうっと腰を上げた。すれ違う瞬間だけ、密着しそうな程に近くなったあなたに手を触れないよう、バランスを崩してとっさにしがみつくようなことのないように、そうっと。ライラは『妙な勝負』の後、あなたとの間に流れる何とも言えない気まずさを感じていた。結局勝敗は有耶無耶になって、残ったのは二人の間に横たわる事実だけ。それでも、何も変わらないと啖呵を切った以上はそう言い聞かせる他なく、雑念を振り切るかの如く、改めて腰を降ろしたライラもまた満点の星空を見上げるのだった。)「……ねぇ、アスラン。」(暫くの沈黙の後ぽつりと海原に投げ出された一言。静けさに耐えかねてというような類のものではなく、心にある引っかかり、纏まらない考えが口からまろび出ただけといった、一本調子なものだった。)   (6/28 14:30:29)
〆鯖/ライラ > 「……『古代ヨズアの神はまだ居る』と言ったのは、シュクロズア様だったのよね。…私はそう聴いてるけど。……なんの根拠も無いことを私達は信じていたのかしら?いえ、根拠なんてきっとシュクロズア様の存在だけで充分だったのよね。だけど今度は『この世界を動かしているのは神ではない』……と言った。私ね、あの言葉の意味よくわかってないの。」(膝を立てて、その膝の上に肘をつくようにして片手の掌を頰に当て、ライラは視線を空から降ろした。あなたの腕が櫂を漕ぐのを見ながら、あなたが何か答えに近いものを言い切るまでとことん黙ってやろうと思った。いつもせかせかと結論を急いでしまうことへの自戒でもあり、また、それはあなたへの信頼でもあった。)   (6/28 14:30:44)


クノ/アスラン > (すれ違う瞬間に香った匂いはある夜の勝負を彷彿とさせるもので、少なくない様々な感情をアスランに抱かせるには十分なものだったが、おくびにも出さずに押し込めて、黙って櫂を漕ぐ事だけが今のアスランに出来ることであった。これまでライラと『すれ違う』事は数え切れないほどあったが、こんな状態になる事は初めてで。互いに沈黙を重ねるこの空気にアスランも耐えかねてか櫂を動かす腕を少し早めた所で、ライラが言葉を投げ掛けた。アスランの胸中を見透かしたかのような言葉に一瞬だけ返事を迷い黙りこくるも。師である自分が悩んでいるのだから、弟子のライラが悩まない筈がないのは当たり前のことだ。早めていた腕のペースを落としながら、波紋が浮かぶ水面に視線を向けた。)「⋯はっきり言って、俺にもシュクロズア様の考えが全部分かってる訳じゃない。」   (6/28 15:12:58)
クノ/アスラン > ((初めてライラと出会った日から、常に教える立場にいたアスランだが、はっきりと「自分にも分からない」と前提を置いた。ライラと同じようにアスランにとっても、シュクロズアという存在は変わらず雲の上のような存在であり、救世主である彼の放った言葉の意味をしっかり理解出来る程、アスランは魔術師として大成している訳では無かった。)「シュクロズア様の言葉を借りるなら、世界ではなく、〝俺達を動かしている神がいる〟。俺達は物語の登場人物なのだと言っていた。⋯⋯俺が俺の意思で、お前がお前の意思で動いている訳じゃなく、その後ろで糸を引いている俺達の創造者が居る、そんな事を言っているように、俺には思えた。」((ふと、櫂を漕ぐ手を止めて。道に迷ったかのように、慣性に任せて速度を落としていく船の中でアスランは、空に浮かぶ星へと顔を上げた。きつく、何とか遠くを見るかの如く瞳を細めてから、ライラへと視線を戻したアスランの口から放たれたのは。)   (6/28 15:13:00)
クノ/アスラン > 「⋯⋯分からねぇなりにな、シュクロズア様の言葉を理解しようとした結果⋯星占いもこの星の輝きも本物なのか分かんなくなっちまった、今の俺には満足に星が詠めない。⋯⋯あの人の言葉を理解しようとすればする程、俺は自分の信じてたものに疑いを持っちまう。そうなれば魔術師は終わりだ。」((足を崩して胡座を搔くと、顔を伏せて大きな溜め息を一つ。師匠としてのプライドではなく、弟子を自分のようにさせたくない。その気持ちから言いたくはなかった事実だが、聞きたいと言われれば教えるしか無かった。それは自分が師匠であるから。沈黙の後に顔を上げ、櫂を握り直して再び船を進ませようとしたアスランの瞳には真剣な感情が宿っていた。)「⋯俺はお前にそうはなって欲しくない。俺にとってお前は〝ライラ〟だ。」   (6/28 15:13:28)


〆鯖/ライラ > (櫂を漕ぐペースを緩めながらぽつりぽつりと語り始めたあなたの言葉にライラは静かに耳を傾けた。苦しげに絞り出されたかのようでいて、やはり、伊達に魔術師をしている訳ではないと言ったところか。どこか小綺麗に纏まった言葉がするり、するりと出てくるにつれ相反して水面は静まり返ってゆく。尤も、必ずしも思考が先んじるとは限らない。言葉にしながら思考を追いつかせているのかもしれない。ライラも真剣にその言葉の裏にある真実を見極めようと、あなたが全てを話し終わるまでじっと黙りこくっていた。『“俺たちを動かしている神がいる“』それはよくある宿命論とどう違うのか、と疑念を抱かずには居られない。宿命論。それは仮にも魔術師が口にしていいものだとは到底思えなかった。全ての魔術師は天命の力を使うが、人為なくしては魔術は使えないはずではないか。人為を意味する字を自らに付けた日の事を思い出しながら、意識を向けずとも視界いっぱいに広がる夜空を感じた。   (6/28 16:30:12)
〆鯖/ライラ > 『——何でもいいわ、あなたが付けてよ。』まだ魔術の事をよくわかっていなかった頃に言った事。あなたの弟子になってから、初めて教わった事が字は自分で決めなければならないという事だった。『解った、じゃああなたの字は?それも自分で決めたんでしょ?』その日の空模様がどんなだったか、今となっては思い出せない。お互いに随分、歳を取った。『アスラン……“夜明け”、か。ふーん……決めた。』昔からライラはうだうだと悩む事が嫌いだった。『ライラ、夜のライラよ。』あの人…“私のシュクロズア”に会ったのも夜だった。彼に会いたいという気持ちから興味を持ち始めた魔術のこと、シュクロズアリ旅団のこと。ライラの人生の節目には、必ず星降る夜の帳が落ちていたから。……いつのまにか漕ぐのをやめていたあなたが最後に付け加えた言葉に、ようやく返事という返事をしようと口を開いた。黙ってなどいられないはずである。せっかちに2手3手先を読んでは前のめりになりすぎるライラの事だ。すぐに何を言わんとしているのか察すれば、焦った、戸惑った。震えた声であなたを呼んだ。)   (6/28 16:30:29)
〆鯖/ライラ > 「……アスラン!…何言ってるの!?」(『自分のようになって欲しくない』と言う言葉に、いやな胸騒ぎがした。)「……何言ってるの、ほんとに。そう簡単に魔術師が魔術を手放せるわけないでしょ。ねぇ、月並みな宿命論なんてあたし達は聞き飽きてるはずだって。……大丈夫だから、教えて。いつもみたいに、あの星を落としてみせてよ。」   (6/28 16:30:40)


クノ/アスラン > (遍く照らしていた筈の星の光すら、真っ直ぐ観ることが出来なくなっていく中で、ライラの輝きだけはまだ失われていなかった。アスランにとってライラは何よりも眩しい一等星であった。多くの夢を宿して真っ直ぐ臆する事無く、少し前のめりになりながら進む姿には少なくない憧れを抱いていたし、互いを繋ぐものが教えと対価、師弟関係、といったものだけとはいえ。それが無くとも見届けたい、導いてやりたいとすら思っていた。いつか、ライラが自分を追い越していくのなら、その背中の眩しさを見送ってやりたかった⋯⋯、⋯それが今日なら。⋯⋯ライラの輝きを奪うような真似だけは死んでもしたくない、それは師匠としても、アスランという一人の男としても。たとえ他の何かに動かされているだけなのだとしても。故に、自分を呼ぶ声に空を見上げて、精一杯。)   (6/28 17:34:16)
クノ/アスラン > 「⋯星よ⋯⋯」((重く、それでいてか細い呟きの後に続く言葉は思い浮かばなかった。何かを続けようとした痕跡を開けたままの口に残して、縋るような祈りは閉じられた。シュクロズアが遺していった言葉は自分が理解出来る範疇を遥かに超えているとはいえ、何も無かった事には出来そうにない。小さな疑問が消えること無く積み重なっていく。『冷静さを失った瞬間、その魔術は綻びていくのだろう。』魔術師に伝わる伝承を想起しながら、ただ黙って輝く夏の一等星を見つめる。偶然でも今、一筋流れ星が落ちてくれたら。言葉にせずそう祈ってしまう時点で────)「⋯⋯ライラ。」((逡巡ともとれる沈黙の後に短く字を呼んだ時点で、アスランの気持ちは決まっていたのだろう。迷いを振り払うように再び船は漕がれ始めていた。)   (6/28 17:34:18)
クノ/アスラン > 「⋯お前に教える前にな、星は、神は一体何なのか、お前にも師匠の俺にも分からねえ。⋯⋯だから、俺はもっと星を識らなきゃいけねえんだ。」((言葉と一緒で、識らなければ詠めない筈だから。そう心の内を正直に吐露しながら、船は進んでいく。せめてゆっくりと漕がれているのが、寂しさや心残りといった感情を映していた。声を荒げたライラとは裏腹にアスランの声色は冷静に見えたが、月明かりの下で眉は顰められ、口元は歯噛みするかのように少し歪んでいた。)「⋯まず俺が、識らなきゃいけねぇからな。⋯そうするしかねぇんだよ⋯⋯、⋯〝分かったか〟。」((暗に今の自分には教えられないと告げつつも、お前の師でありたい。我儘を押し付ける形になる事も分かっていながら、最後に師匠として振る舞ったアスランだった。   (6/28 17:34:28)


〆鯖/ライラ > (『あの星を落として。』ライラの嘆願に、一も二もなく応えようとしたあなたの息遣いを感じて目を閉じた。『——いいか、よく見てろ、感じろ。』今まで何度も繰り返したやり取りは、あなたが何も言わなくても脳裏に浮かんだ。星よ、その一言に続く……沈黙。ライラはその眦を裂いてもう一度あなたの口許を見つめる。何かを続けようとして名残惜しげに開かれた口は、ゆっくりと結ばれてゆく。もうその後の言葉は聞かずとも、それが答えになっているようなものだった。)「……アスラン。」(あなたはそれ以上、言い訳じみた弁明をしようとはしなかった。再び櫂に手が伸ばされて舟は動き始める。最後まで師匠(せんせい)らしく振る舞おうとしてなのか、どこか毅然とした態度は、ライラを拒絶しているかのようにも思えた。『これ以上、こっち側に来るな』——と。)「……識らなきゃいけない……?…今までだって、知らずに使っていた訳じゃないでしょう、ねぇ……。」(責めるつもりはない、“答え”を乞う気もない。ただそれは、ライラの気持ちよりも先んじた動揺の言葉だった。)   (6/28 21:07:32)
〆鯖/ライラ > 「……出来ないなんて言わないでよ。この世界中で紡がれる全ての言葉が魔力を持ってる、魔術師であろうとなかろうと。そうでしょ?…あなたはいつから、届く言葉だけが魔術だなんて言うようになった?……いつから、叶うものだけを夢と呼ぶようになった?」(皮肉にも、思考の巡るより早く回る舌をライラは呪いたくなった。どうしてあたしは、どうして……。それでも、言葉を紡ぐ事をやめようとしないのは、何かに逆らう自由意思のようなものを心のどこかで感じていたからだった。それから、はっと思い立ったようにローブを裾から捲る。足と臍が見えると、逆さになった布地から小さな手ぬぐいが落ちた。一思いに頭から脱いでゆくと、小舟がまたバランスを欠いて揺れる。踊り子の姿のままでもそれを意に介した様子を見せず、上品な牡丹の刺繍が刺された手ぬぐいを拾って広げ、普段に比べていくらか厚い紙幣の束を二人の間に重ねた。もう一枚、もう一枚と。手ぬぐいに包まれた金銭が意味する、授業料。まだあなたの弟子でいたいのは、ライラも同じだった。)「……対価を……」   (6/28 21:08:01)
〆鯖/ライラ > (鋭い三白眼があなたを捉えてそう口にした瞬間、一陣の風が二人の間を渡った。髪が目に入りそうになりぎゅっと目を瞑ると、紙切れははらはらと夜空へ舞い上がり海原へと攫われていってしまった。)「…… っ……!」(ライラはそれに手を伸ばせなかった。不安的な船の上で身を乗り出す事の恐ろしさが勝り諦念に支配されて。紙吹雪宛らに金が舞い上がる光景はあまりに現実離れしていて、何か舞台の一幕のようで……偉大なる王の言葉を裏付けしていると思うのをライラは止められなかった。眉尻を下げて、またあなたの顔を見る。もう自分に払える対価はここに無い。ないのだ。『身体で払う』だなんて言っていた十年前の自分がいかに子供だったかを思い知らされるくらい、小さな小さな船の上には大きな大きな距離があった。何も考えずに、自分に価値があるという前提で思い上がって、その胸に縋って媚びを売れるなら……こんなに簡単な事はないだろう。)   (6/28 21:08:26)
〆鯖/ライラ > 「……くすっ……くくっ、ふふ……あははっ……!」(乾いた笑いを響かせて顎を天に向けた。目の前の男に向かってではなく、まるで遠くの誰かに聞かせるような大きめに響く声を出して、ライラはひとり語り出す。)「——あたしを背後で動かす神ってやつがいるとするなら、きっと女よ!あたしとおんなじくらいひねくれた、性悪女に違いないわ!あはははっ!」(空を写した海原の中、夜空を泳ぐかのような船。方舟ではなくとも『船』は自分たちヨズアを象徴するに充分で、その中に押し込められた二人は夜と暁の名を持つ魔術師だ。ライラのもうひとつの信仰とも言える金は取り上げられたかのように無慈悲に宙を舞い、水を吸って役に立たなくなる様を見せつけられる。そこまでして振り向いて欲しいの?シュクロズア様の言う神って奴がいるとするならば、ずいぶんと構ってほしがりだこと。)   (6/28 21:08:43)


クノ/アスラン > (ライラから掛けられる言葉の数々に、まるで心を蝕まれるような感覚に陥った。ライラの言葉が響かない訳では無い、それでも今のアスランには答えを導き出すことは出来ない。自分で納得いかなければ、再び真っ直ぐ星を見れるようにならなければ何一つライラに教えられない。今更変わらない事実がライラの言葉一つ一つに抉られている気さえして、一層眉を強く顰めた。目の前で重ねられた金銭に激しく反応を見せなかった自分を褒めたいくらい。それが潮風に煽られて宙に巻い沈みゆく中でも一切の行動を示さなかった事を、その決意を心の中で賞賛したいくらいだった。自然と櫂を握る手に力が篭もりながらも、凪ぐ波とは裏腹に大時化の様相を呈する心を表に出さずにいる自分の、なんと立派な事か。────そう思えたのは、その瞬間だけのことであったが。)   (6/29 02:59:33)
クノ/アスラン > 「⋯⋯⋯」((突然笑いだしたライラに隠しきれない感情の変化を前面に出し、真っ直ぐ瞳を向けた。いつかの情事を彷彿とさせる薄い踊り子の衣装すらも最早気にならず、誰かに語り掛けるように話し出したライラにアスランは黙りこくり、漕いでいた櫂の速度をゆっくりと弛めていった。ライラの独白が終わり、いつしか腕が止まってから、ふと離した腕でライラの両肩を掴み、胸元へと引き寄せた。)「お前は、まだお前は及第点だ、ずっと俺の弟子だ⋯っ!⋯まだ、お前を認めてねぇぞ、俺は!!!」((両肩を掴んだ腕に力を込めたのは、抱き締めようと動きたがる腕を抑える為に必要な行動だった。自分の体へとライラを引き寄せ、胸元に押し付けている時点で些細な抵抗など意味は無いかもしれないが。⋯⋯急に重量を動かした為か激しく揺れ始めた船の傾きを感じながらライラを引き寄せた状態で止まり、薄い踊り子衣装の布に深くシワを刻んだ。)   (6/29 02:59:35)
クノ/アスラン > 「お前を大成させるまで、放り出せるか⋯。まだ教え足りねぇんだよ、⋯⋯俺を動かす神が居るかはまだ分かんねぇが⋯居るんだとしたら⋯⋯⋯⋯上出来だ、畜生⋯⋯!!」((最後に一際ライラを強く引き寄せ、絞り出すように強い声色で呟いた。ここまで正直に自分を動かす神が居たなら本当に上出来だと思った。抑えきれなかったことを責めるよりは、隠さず本心を吐露したことを褒めるべきだとすら思った。⋯⋯まあ、この判断は自分の意思だと確信はしていた、が。   (6/29 02:59:52)



〆鯖/ライラ > (ライラの乾いた笑いは、あなたの両手が肩に触れた瞬間ぴたりと止んだ。俄に引き寄せられて、上体がぐらりとあなたへ預けられる。ちゃぷ、と音を立てながら傾く船はまるで、理性と感情の間で揺れ動く天秤そのものだった。)「アスラン」(小さな声で師の字を呼んだ。舞った紙幣の束…師弟を繋ぎ止める唯一の契約の証に目をくれることもなく、神に、シュクロズアに、言葉に、そしてライラに。真っ直ぐと向き合って悩み抜こうとする姿は、理解の範疇を超える『背後神論』を受けて投げやりになりそうになっていた彼女をはっと正気に返した。)「……あたしがあなたに払える対価はこの船の上で今まさになくなってしまったわ。あなたがあたしに教えることもわからなくなってしまった。神の思し召しって言葉がこれ程見合う状況も中々ないって、あなたも思ってるのよね。だからそんなことを言うんでしょう?」   (6/30 11:36:01)
〆鯖/ライラ > (船が傾いているというのに、肩を寄せられた格好のまま少しも動けずにライラは呟いた。あなたの心音を聞きたいけれど、自分のそれがもっとうるさくてわからない。きっと、その騒めきは恐怖なのだろうと、自分は恐ろしいのだろうと思うことにした。この先にあるのが沈みゆく末路なのか、それとも再び天秤の端と端で心地よい距離を保ったまま、もう一度折り合いをつけていく事が出来るのかという事が。『どうすればいい?あたし……。どうすればいいの?』大陸の東側、帝都に近いこの場所からでは春から初夏にかけて見える天秤座が、もう遥か西の水平に溶けて消えかけている。ライラはゆっくりと上体を起こして居住まいを正し、あなたの肩越しに夜空を見た。天秤座は見つけにくいから、スピカを目印に探すといいんだったかしら、なんて初歩的な星読みに追憶を巡らせながら。)「…アクトゥルス、スピカ、デネボラ。この三角のアステリズム(星群)がシントから見えづらくなると、夏が来たしるしね。…振り向けばほら、あれがデネブ、アルタイル、ベガ。……」   (6/30 11:36:23)
〆鯖/ライラ > (それは追憶をなぞる独り言に過ぎないものだったが、まるで今度は自分が師匠になったかのようにゆっくりと言い含めるようなテンポを持っていた。瞳は目の前のあなたではなく、どこか遠くを見つめている。)「星は新しい季節の到来を教えてくれる。何度だって巡る。だから迷いはここに捨てていきたいと思うわ。この場所は、今から過去になる…」(『――新しい物語をはじめてくれ。』偉大なる王の言葉が、重なる気がした。どこか自分に言い聞かせるような口上めいたライラの言葉は、ここで何らかの決断を下さなければならないということを解っていると、暗に示していた。……ライラはライラのまま、アスランはアスランのままで居るために。)   (6/30 11:36:58)


クノ/アスラン > ((二人が片方に寄った事で傾いた小舟の中、肩に置いた自分の腕がほんの少しだけ震えているような気がした。きっと激しく船が揺り動いたから、起きた波で未だに船自体が揺れているのだろう。自分の胸元でぽつ、ぽつと零されるライラの言葉を聞きながらアスランは小さく頷きを返した。顎をしゃくる程度のものでライラには分からないかもしれない。⋯⋯もし、本当に星占いの結果すらも、背後の神という存在が俺達を引き裂く為に導いているのだとしたら。⋯⋯俺は、必ず結果に逆らう、占い通りにしてなるものか。瞳を細めて何か決意のような物を孕んだ表情を浮かべていると、ふと顔を上げたライラと瞳が合い、ぽつぽつと告げられた星の名に自分も僅かに振り帰って空を仰いだ。)   (7/1 00:22:48)
クノ/アスラン > 「ああ、⋯⋯⋯もう夏だな⋯⋯。」((告げられたのはあまりに初歩的な⋯⋯何処かデジャヴを覚える単語ばかりだ。星に興味を持った人が居たのなら、誰もが最初に覚えるであろう星の並び。急にいったいどうしたのだろう、といった困惑もあってか歯切れ悪い返事を返しながら、自分はゆっくりと首を戻してライラに視線を向けた。瞳は合わせずとも漠然と顔全体を見れるように瞳を伏せ気味に、何度か喉を動かした。何か、言いたいことがある筈だ。山のようにあるのに言葉を選んでいるせいで、口が回らない。僅かに空いた唇の隙間から息を吸い込んだ所で、ついで出たライラの声に耳を傾けた。)   (7/1 00:22:50)
クノ/アスラン > 「⋯⋯────何度だって、巡る、か。⋯⋯はっ、何を今まで忘れてたんだろうな、お前の言う通りだ。」((漏れる乾いた笑い声は少し吹っ切れた様な色をしていた。目を閉じて肩を揺らして笑うと、今度は中天を見上げて、考えるような間を開けてからぽつりと呟く。)「⋯⋯そうだな、スピカが高く昇る頃の夜に、いつかまたお前に逢いにいく。⋯忘れねぇよ。」((ゆっくりと視線を下ろすと、今度はしっかりライラに視線を合わせ。肩に置いた腕に少し力を込めると、するりと背中の方に腕を滑らせようとして、止めた。)「⋯⋯琴座を見る度にどうせ、ライラを思い出すだろうし。⋯⋯あんがとな、俺も迷いは手放さねぇと、な⋯⋯。」((止めた腕でライラをほんの少し、押すようにして離すと笑みを歪めて、急いで首だけを回して後ろへ振り返り。先んじた首に追い付こうと腰を浮かせて体も動かし、完全にライラに背を向けて背筋を曲げた。)「⋯⋯⋯⋯。」((わななく肩を隠すかのように、櫂を手に、とった。   (7/1 00:23:03)


〆鯖/ライラ > (ライラが口にした独白じみた言葉は、発した瞬間はまだ酷く目的を持たないものだった。ただあなたに嘗て教わった事が懐かしくて零れたのか、まだ魔術師でいて欲しい気持ちから、まるでこちらが師匠かのように振舞ってもう一度初歩を教えてみせたのか。どうとでも取れる大局的な曖昧さを、ライラは星に託していた。あるいはあなたを試していたのかもしれない。――返事を聞いて、その目的……何を語ったか、ではなく、何を言いたかったかという事の輪郭がようやく浮かび上がる。『何度だって巡る。』きっと、このたった一言が言いたくて、散々言葉を浪費したのだ。天球儀をこねくり回して見つけようとしたものは、そんな月並みな、再会を約束する意思。季節が来れば必ず決まって昇る星のように、『これで終わりじゃない』と根拠付けたかったのだ。)「……あは、長い休暇ね、先生。……そうよね、振り回されてたまるもんですか。あたしたちには魔術師としての字がある、人為の力がある。……一年後にはまた、師弟として会いましょう。……さよならはしないわ」   (7/1 02:07:30)
〆鯖/ライラ > (師弟という前提が崩れ、もう会う理由のなくなった自分達が、安易にもただの男と女となって関係を続ける事を考えなかった訳では無い。あまりに長く一緒に居すぎたせいで、友人とも家族とも兄妹とも違った、人生の同伴者、運命共同体のように感じていて今更どう決別すればよいのかと戸惑うのは当然の事だったから。だけれど、愛し合っている訳でもないのに、あなたを情夫の扱いに堕としたところでどう考えてもその先に未来はなさそうであったし、また、あの妙な夜のせいで今更友達にも戻れそうになくて。ヨズアの国を手に入れて、『あたしのシュクロズア』と再会して、金持ちの男と結婚して……そんなライラの夢の先にあなたは居ないのだから。……だから、ライラはあなたの言うしばしの休暇を受け入れた。次に会う頃は互いに以前よりも深く星を識った上で会おう、と。その時にまだ答えが見つかっていなくたって、何度だって星は季節を連れて巡るのだ。)   (7/1 02:07:46)
〆鯖/ライラ > 「『神とは何なのか』……か、未だかつてないくらい大きな宿題ねぇ……。」(微笑むかわりに、ライラは目を細めた。――目を細めること、空を見上げること、ぜんぶ、あなたから貰った癖。また櫂を手にとり顔を背けられれば、顔を天に向けて、琴座(Lyra-ライラ)を瞳にうつした。琴座を形成する五つの星の連なりのうち、いっとう輝く恒星は――『あぁおかしい、笑っちゃうわ。出来すぎ、いえ上出来よ、神様。』――ベガ。一年に一度だけ連れ合いと会う事ができるという、織姫星。 )(それから、どれほどの沈黙があったかはわからない。ただ船が岸に着くよりも先に、空は何事もなかったかのように白んでいった――暁を従えて。)〆   (7/1 02:08:00)