この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

治療

(火津彌&静香)

〆鯖/火津彌 > 「……解った解った…、治療は受けると先程から言うとるやろう。……放っておいてくれ、頼むから……」(帝国軍の巫子の一人を引き連れ、火津彌はとある場所へ向かっていた。軍お抱えの巫女、雨屋の令嬢の治療院。ここにはとある、噂があった。……いつもはさっぱりと纏めている髪を下ろし、目に隈の染み付いた憔悴しきったような顔で、火津彌は自分から離れようとしない巫子を睨む。こいつも悪気がないのは解っているが、今はひどく鬱陶しい。雨屋の治療院に着いたら適当に追い払って、私もさっさと帰るとしよう。――今は、治療など受ける気にはなれんのだ。火津彌と巫子のやりとりは徐々にあなたの院に近づいてゆき、そして扉の開く音を皮切りに止んだ。)「ごめんやす」   (6/25 02:07:39)
〆鯖/火津彌 > (軍人らしからない、優しげな故郷の訛りをいつもより一層強めて火津彌は声を発した。相手が美女と名高い雨屋 静香嬢だからか、はたまた凛然と振る舞う気力も無いからかは解らないが。)「私は鬼灯佐官や。雨屋のご令嬢ですな……お務め、ご苦労さん。」(火津彌がそう言い切ると、先程の巫子が脇からひょっこりと顔を出して付け足した。〝この人を治療してやって下さい、ウチじゃ手に負えなくて。〟と、そんなような事を言い、謝りながらそそくさと去っていった。)「……あ、貴様……。はぁ。……まぁ、そういう訳やけど、気にせんで宜しおす。しばらくしたら、私は帰らしてもらうさかいに。治療なんか要らん言うたんやけどな、とりあえずここに来るまではって巫子連中が聞かんもんやから……後で口裏合わしてくれたらよろしいですわ。お嬢さんがどれ程の凄腕かは知らんけども。」(先の戦闘で追った脇腹がじくじくと痛むのを頭の隅に追いやりながら、務めて淡々とそう言った。雨屋の令嬢の治療院の噂――それは確かに、讚談であった。『治すのがうまいらしい』といった類の。火津彌が知らないのは、それが『心の傷を』の枕詞が付く事だけである。)   (6/25 02:07:51)


枡/静香 > はい、終わりましたよ。…まったく、少しの間でも大人しくしてくださればこんなに長い時間を必要とはしませんでしたのに。(丁寧に布を巻き、簡単に解けてしまわないよう先を軽く結び終えれば相手の顔を、目を見て文句を言う。傷口にしみるのが嫌だからと直前になって治療を拒んだのだ。どうにも、奥さんに行くように言われ追い出されてしまったため渋々来たようだった。無駄な時間を消費してしまった、と。隠す気もなく不機嫌そうな顔を晒す。相手がお客様であろうと彼女にとっては関係ない。悪いと思った事は悪いと言うし、良いと思った事は素晴らしいとと称賛するのだ。いつだってそれが正しいと教わってきた。感情を心の内に宿すだけでは相手に伝わらないよと。いやいや治療を受け首を垂れる患者の背中を押すようにして受付へと移動すれば、さっと会計を済ませてしまう。この患者が帰ったら少し早いが昼食でも取ろうかと、そう考えていた。)   (6/25 02:39:04)
枡/静香 > (『ガラガラ』と軽い音を聞けば、先程の患者が何か忘れものでもしたのか、それとも新しい患者だろうか?扉の方を見やる。丁寧に優しく挨拶をしてきた彼を見れば疲れたような表情を一気に直し、笑顔で挨拶と、労いの言葉に対する返事をした。)こんにちは!えぇと、あぁ!ありがとうございます。……佐官を診れば良いのですか?わかりました。緊張しますが任せてください。(表面上だけでもきちんとしなければ。背筋を伸ばして彼女と、それから彼の方を向く。“口裏だけでも”なんて言葉を聞けば小首を傾げ、「ここは診療所ですよ?」と声を掛ける。) 腕前がどれくらいかは見てもらえればわかります。怪我をしている人を放っておく人は巫女として失格です!…佐官さえ良ければ診せていただけませんか?   (6/25 02:39:07)


〆鯖/火津彌 > (ついつい放ってしまった皮肉めいた悪態に、しまった。少しぶっきらぼうだったかと思い顔を上げると、小首を傾げるあなたの姿が目に入った。清潔に束ねた長い三つ編みと赤い菊結びの紐が少し揺れて、一瞬のまばたきが火津彌の顔を捉える。長い睫毛に縁取られた色素の薄い瞳、白い肌。帝国軍に所属する血の気の多いご婦人方の中ではあまり見ないような清楚で柔らかく女性的な雰囲気に、思わずうっとたじろいだ。なんだかわからんが、この巫女には強く言えない気がする。元々女性にはめっぽう弱い性質が、弱りきった心のせいで余計に敏感になっていた。硬直を破ったのは思いがけないあなたの強い言葉で、目をしぱしぱとさせながら火津彌はますます狼狽えるようにして言葉を返した。)「……お、おぉ……。なんや、いや、その。……すまんがな、今はその、私は治療を受ける気は無いんや。ただ一人に、なりたいというか…。」   (6/25 03:01:51)
〆鯖/火津彌 > (もごもごとバツが悪そうに口籠っているうちに、うっかり一つ、心の内を吐露してしまった。たいした理由はなく、ただ不貞腐れているだけという事は側から見れば丸わかりであるが。火津彌だけはそれを、隠せていると思っていた。扉を引いてそそくさと去ろうか、どうするべきか。ずっ扉の前に居られても他の患者の診療の邪魔だろうしと、所在なげに軍靴の底が鑪を踏んだ。)   (6/25 03:02:04)


枡/静香 > 治療を受けず一人になりたい…。それは、傷を見せることに抵抗があったり、何か不安があったりするから…なのですか?それとも、傷心に浸りたいとか。(相手の様子を見るに不機嫌だから一人にしてくれ、といったような雰囲気ではなかった。深い傷がある風にも見えない。だが例え傷が浅いものであろうと治すことにデメリットがない事は彼自身が良く知っているだろう。戦場ではひとつの小さな油断ですら命取りだろうから。ひとつの可能性として、精神的に参ってしまっているか、先の戦いで起こった何かに思うところがあったりしたのかもしれない。そう考え声を掛けたのだが、はた、考え直してみれば失礼だったかもしれない。気分的に嫌だ、なんて事もあるだろうし。)   (6/26 03:15:18)
枡/静香 > (慌てて両手を顔の前で振れば「あ。ち、違います!別に怒らせようとしたとか、不快にさせたかったとか、そういうものじゃなくって…!」なんて謝罪をする。心配だったから、と言うのも目上の相手に対して抱く感情としては間違ったものだろうか。) …でも、なんと言いますか、先程の巫女さんも心配していらっしゃいましたし、私も心配…ですから。何かあれば言ってくださいね。少し、いえ、かなり。頼りないかもしれませんが。(口元に手を当てもごもごと喋る。控えめに提案をするが、流石に押しすぎただろうか?気分を害していなければいいなと思いながら目を背けて。)   (6/26 03:15:20)


〆鯖/火津彌 > (柔らかく静かに響く声がおずおずとこちらに疑問を投げかけたと思えば、みるみるうちに慌て踏めいたものになってゆくのを見て、火津彌はぽかんと立ち尽くした。皮肉――では、なさそうだ。なんと素直な娘だろうか。魑魅魍魎の跋扈するこの帝国軍の中、よくもまぁ、ここまで清くおられるものだ。いつもの癖でまたしぱしぱと目を瞬かせ、口を開こうとした瞬間だった。)「……お『きゅうぅ。』(狐の鳴き声に似た音が治療院に響き渡る。火津彌は、バツが悪そうに腹を摩って俯いた。)「あ……こ、これは、いやその」(黙っておけばよいものを、今のずいぶん情けない音は私の腹の虫ですよと言っているのとほぼ変わらない反応をとっさに表して、はっと口を噤んだ。――そんな声で鳴いても、稲荷寿司もきつねうどんも貰われへんよ。堪忍してや……。そんなふうに、火津彌は腹の虫に念じた。視線のやり場に困ってたまらず窓の外を見れば、木に止まっていた鳶が飛び立っていた。ピーヒョロロ、ピーヒョロロと、声だけが窓の外からもまだ入ってくる。今頃、夏空をぐるぐると旋回しているのだろうか。)   (6/27 21:35:54)


枡/静香 > (立ったまま動きを止めてしまった火津彌を見ては、やはり失礼であったかと数分前の過去を悔やみ相手の言葉を待つ。__暫しの沈黙の後、相手が口を開きかけたその後に聞こえた音は声ではなく、どちらかと言えば腹の音…いいや、何か獣の鳴き声のようなものだった。しかし、この場に獣などいる筈もない。何かの音が聞こえたその後、相手が腹の方を見たのを確認してはやはりお腹が空いているのだろうかと、一体どういうことなのだろうかと思案する。凄く個性的な鳴き声の虫をお腹に飼っているとか?もしくは本当に何かしらの動物がいるとか。………と、とりあえず。聞いてみない事にはわかるものもわからない。好奇心旺盛な彼女には聞かないと言う選択肢は無いにも等しかったが、先程の失敗もあるため少し遠慮がちに問いかける。) ……えぇ…っと、動物…じゃなくって、もしかしてお腹が空いているとか。お腹が空いていて何かを食べに行きたいから、それで一人にして欲しかったのですか?   (6/30 11:43:35)
枡/静香 > ここは診療所なので沢山のものを置いているわけではありませんが、お昼に食べようとしていたご飯でもよろしければありますよ。今日は昨晩使いきれなかった食材が余っていたものだから、お弁当作りをはりきってしまって。つい作りすぎてしまっていたの。…ですから、良ければ一緒に昼食なんて如何ですか?(良い事を思いつきました!と満面の笑みを浮かべればそう提案する。“腹が減っては戦ができぬ”という言葉もあるし、我ながら良い案なんじゃないだろうか?彼が本来何の目的でこの場所に来たのかももうすっかり忘れて、彼女は目の前の話題に夢中になってしまっている。)   (6/30 11:43:38)


〆鯖/火津彌 > (あなたの質問と提案を聴き終わった後、『動物…』と零れた言葉が一瞬引っかかり、あぁ、と得心して思わず鼻から息が漏れた。)「……ん、ぶはっ。」(聴いてこないにしろ、あまりにも考えが丸わかりすぎる。…そうやな、うん。変な動物みたいな鳴き声やったものな。僕もそう思う。だが、胃袋におるのはあんたと同じ何の変哲もない腹の虫やで。なんて、心の中で呟いて。……あなたのその表裏のなさは、既に火津彌の警戒心を解くには充分だった。断る理由をあれこれ探すよりも、ここは潔くご馳走になってさっさと帰るのが得策だろう。本当は静香嬢の特製弁当というものに興味を唆られないはずはなかったが、自分自身に言い訳をするようにそう考えることにした。)「……そうか……うん、そこまで言わはるなら、よばれましょうかな。……ありがとう、おおきに。」(隈の染み付いた強ばった表情を、この時やっと、少しだけ弛めたのだった。)   (6/30 12:33:06)


枡/静香 > えっ、…え? どうして笑うのですか…っ!(自分の発言に何かおかしな部分があったのだろうか。堪えきれなかったのか軽く吹き出してしまった相手を見てキョトンとした後、恥ずかしさからか不満をぶつけるように言葉を投げる。 相手の都合も知らずまま聞いた「一緒にお昼を食べませんか?」なんて問いかけに対し良いとの返事を受ければ、彼女はより一層表情を明るくして彼を見る。) 本当ですか!?…では、お弁当箱を取ってきますね。__ないとは思いますが、私が少し席を外した間にここを去ろうとかしないでくださいね!……寂しいので。(もう家を出てから暫く経つが、未だにひとりでご飯を食べることを寂しく感じる事がある。いつも家族全員で食卓を囲んでいたから、ふとした時に孤独を感じてしまって悲しくなる。だから今日だけだとしても、一緒にご飯を食べてくれる相手が出来たのは静香にとってはとても嬉しい事だった。受け付けの奥にある、風呂敷の中にしまって持って来た弁当箱を、なるべく早くと急いで取りに行く。)   (7/1 20:58:24)
枡/静香 > (こんな無茶振りとも言えよう提案をすんなり受け入れてくれるなんて。きっと彼は、佐官は、…いや、“火津彌”と名乗る人物は、自分が想像していたよりずっと優しく、誠実な人なのだろう。だからこそ佐官という役職が務まっているのかもしれない。いくら上役と言えど信頼が無ければ指示に従わない者も出てくるだろうし。そんな事を考えながら。 )   (7/1 20:58:26)


〆鯖/火津彌> (どうして笑うのですかと言うあなたに、いやいや、なんて軽く返事を返しながら、昼食を食べるという提案のためとりあえずは椅子に座ることにした。腰を掛けたことで身体もいくらか軽くなったような気がする。”言葉とは、広義の魔術。”もうとっくに治療は開始されていることを、火津彌はまだ知らなかった。)「……え、ああ…わ、わかっ…‥……っと…行ってしまったか。…ふ、”寂しい”やて、……なんやろうな。」(いじらしく殊勝な言葉をそのまま真に受けてもどうしようもないだろうとは思いながらも、ひとり残されれば自然と口元が緩んだ。)「可愛らしいなあ。」   (7/2 00:30:52)
〆鯖/火津彌> (自分にしか聞こえないような、小さな声でそう呟いた。特別な感情というような大層なものでもないけれど静香はどうやら火津彌の好みだったらしい。元々女性には甘いほうであるし、若い娘にこんな風に優しくされたら、悪い気はしない程度には、やはりただの中年なのだ。――ああ、腹ごしらえをしたら、治療くらい受けてもいいかもしれない。幸い鳶はもう空へ飛び立った。もう”油揚げを攫われる”こともないだろう。思えば空回りばかりの軍人生活だった。何一つとして自分のほしいものが手に入る事はなく、手柄やら何やら、横から奪われていくけれど。『けど、その弁当は僕のもんやから。』今はそんな小さな気遣いが染みた。それが独占欲のようなものだと気づくにはまだ少し……時間がいるようだった。)〆   (7/2 00:30:58)