この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

螢の虫媒、その蘭へ(仮)

(咲夜&オウガ)

『鬼と戯言』から
骨牌/咲夜 > (夏の夜風が長く伸ばした髪を棚引かせる。華やかな帝都の夜ではあるがこの辺りは屋敷が多く立ち並ぶだけで人通りは疎ら。その名を知らぬ者こそ珍しい身分故、すれ違う影の少なさに内心では安堵しながら手提げ袋を持ち直して白塗の壁を見上げた。昨日の今日で足を運ぶなど可笑しく思われやしないだろうか、そんな心配をする自分が恨めしい。徐々に下がってゆく視線は水路に生えた葦の葉にとまる蛍を映した。その虫は生涯の大半を水中で過ごし、成虫となってからの寿命は二週間足らず。命を燃やすかのように光り、恋し、そして死んでゆく。「ほう、ほう、ほたるこい」自然と童歌が口をついた。彼方の水は甘く、此方の水は酷く苦い。正門へと辿り着くと門兵に軽く頭を下げて、手提げ袋に入った水菓子の幾つかを取り出して渡す。こんな時間まで仕事に勤しむ彼らを労わぬ理由はないと逸る鼓動に言い訳をして殊更にゆっくり歩を進めた。そうして手櫛で髪を整えながら奥へと足を運んだ、その時――空気が動いた。   (6/9 00:59:41)
骨牌/咲夜 > 背筋を凍らせるような覇気、伏せられた双眸は一瞬にして開かれ、背後で門兵が倒れる音がするがそれを振り返ることもせず手提げ袋を投げ捨てて部屋の戸を開いた。床下へ白桃が転がり落ちる。咲夜は叫び声をあげるのをすんでのところで堪えた)……なんということを!(倒れる火津彌とその前に仁王立つオウガ。なにがあったのかは一目見ただけですぐに分かった。捕虜が看守、それも佐官に手を出したらどうなるか分からぬオウガではない筈だが、そんな理性の箍を外す何かがあったのだ。目を赤くしてまさに〝鬼のような〟形相で怒髪冠を衝くオウガを後目に咲夜は火津彌の傍に駆け寄るとその半身を抱き上げた。薄い胸に頭を引き寄せ、血の気のない唇を片手で覆う、まだ息はある。よかった。人を呼ぼうと顔をあげてはっとする、先ほど門兵の倒れる音を聞いたばかりではないか。医務官を呼ぼうにも今動けるのは自分だけだ、それに果たして人を呼ぶ時間はあるのか)   (6/9 00:59:55)
骨牌/咲夜 > あぁ、本当になんということをしたのです。お前というやつはどこまで、お前はわたしを……っ!今から火津彌を助けます。なぜこんなことになったのか理由は後でお聞かせください。ひとふたみ……。(咲夜は火津彌の顎先を引き上げ気道確保を行うとその手を取った。焼けた頬から血が流れ落ち首筋を通って服に滲む。その生温い感触に眉を寄せながらも、火津彌の顔を見下ろし唇に馴染んだ呪を唱える。銀灰色の瞳に映るのは火津彌の無残な姿であるが、咲夜の脳裏に浮かぶのは別の姿。本来であれば佐官を害した捕虜をその場で捕虜を捕えるなり殺すなりするのが先だ。こうなった理由が分からなければ次に狙われるのは自分かも知れぬと警戒すべきだ。それなのに今、自分は火津彌を助けることを優先させている。そのうえ、手の平を通じて生命力が流れ込むと同時に焼け付くような痛みが咲夜を襲った。   (6/9 01:00:11)
骨牌/咲夜 > 香々夜の魔術は万能ではない。命に限りがあるように、その魔術には限度がある。守山で無理やり蘇生させたこの命、仮死状態にあったオウガを助け、火津彌まで救おうとするなど身の丈を超えている。呪で抑え込んでいた守山の古傷が疼きはじめたのだ。掌を見れば白い肌を走る赤い雷紋。この傷はどこまで続いているのだろう、まさか顔まで覆ってやしないか、それどころか止めていた時が動き出してやいないか、恐怖に駆られるが確かめるすべはない。あぁなんてツキがない。せかっく『美しい』と言ってもらえたのに、身体を貫く激痛よりも何よりも醜い顔を見られるのが怖かった。いっそこのままこの命奪ってはくれないか。思わず俯けば長い髪が顔を覆い隠す、煩わしいばかりの長い髪に今日ばかりは感謝した)ふるべふるべ……、あぁ、どうかわたしを見ないで。   (6/9 01:00:28)


しずま > 「…っは…(拳に、振り切った拳に、愛はあった。人を想うがために。兄が弟を守るように慈愛に溢れている拳で。でも、それだけではなく。そうだ、あなたのために。愛するあなたのために。振り切った拳は、正解だったのか。その迷いのように、自分の右拳を蝕む炎は揺らめき消えた。あっている。正しい。間違っていない誤ってなどいない絶対に絶対に絶対に…そうである、はずだ。あなたの揺らぐ白い髪を見るまでは、その考えは頑ななものであった。なのに。あなたが現れてしまっては、風前の灯火が、守りきれなくなってしまうではないか。「なんということを」という声が聞こえて、赤くした目を、そちらに向ける。)」   (6/9 04:21:05)
しずま > 「咲夜…お、れは…ァ"…!(ひどく、考えるその頭と、額の上が痛い…角の生え際から、2、3滴血が飛び散って、その転がった白い桃を赤く汚した。痛い。痛い。痛い。…その一瞬が、十数もの時間に感じた。その間に、オウガは、夢を見た…栓を、抜いてしまったのだ。)あ…アァ…俺はッ…俺は…!(自責の念に駆られている。…と、思われた。その悲痛な心は、何人、自分にも、言い表すことはできない筈だ。しかし、それが言い表せないのは、誰もの意表を突く心であったからだ。血の涙が1滴、目から溢れた。それだけだ。血はそれだけしか出なかった。…血も涙も、もう老骨の体には残り少ない。)…だ…れ…だ…(呆けた顔をしている。何かを求めるように、空に手を伸ばした。…仲間でも、なんでもない、「何か」を求めて。)」   (6/9 04:21:28)
しずま > 「だ れ だ ?(1度だけなら、聞き間違えで済んだかもしれないのに。2度目の声は印象的だった。その一言を発すると、その瞬間だけ、無我夢中であったオウガが夢の中から目を覚ます。オウガは、一切の涙を流さなかった。辛い、思い出だと言うことは、先ほどの「自分が誰なのだ」という問いから、傍目から見ても簡単に分かる。それでもオウガは、自分を労う前に、咲夜の方に膝で歩いて近寄った。…見ないでくれと言うあなたの思いを無視したのだ。…傲慢。見てほしくないとあなたがそう願っても、壊れた心のオウガには届かない。オウガは、それをなんとか隠そうとしていた。気丈であろうとしていた。…愛する人の話を聞いていない時点で、十分おかしいと言うものを。)」   (6/9 04:21:48)
しずま > 「さくや…?(頼りなく名前を呼んだ。長い髪が邪魔をして、その横顔はよく拝めない。…蛍が一匹、咲夜の横を通り、髪がかかって暗い顔を一瞬だけ照らした。)…さくや!さくや、あぁ…!(言葉が出ない。やめろと、そう言えるわけもない。ホヅミのせいか。咲夜の判断のせいか。誰のせいだ?その答えは、他でもなく、オウガが悪いのだから。自分にその魔術を止める資格はない。彼女を傷つけたのは他でもない自分自身なのだから。…どうにかできたはずだ。自分が耐えれば、咲夜が傷ついてまで治すはずはなかったのに。たられば言っても仕方がない?誰がそんなことを言えようか。…いつのまにか、ばさ、と広がっていた縦長の厚紙の1枚には。)」   (6/9 04:22:06)
しずま > 「(「夜に咲く 胡蝶の蘭に 此を問う 花に止まるは 胡蝶のみかと」…俳句は、3枚ではない。何枚も重ねられた厚紙の下に、隠れていたものだ。ホヅミが来る前に隠したもの。単純に、この関係がばれれば、どうなるのか分かったものではない、という、警戒の心と、そしてこれを見られること自体を恥じる心だ。実際、この詩を見ることができるのは、1人。ホヅミの目にも、おぼろ気に見えるかもしれない。しかしオウガは、それに気付いていない。今は、ホヅミを抱いた咲夜しか目に見えていない。あぁ、そうだ。あなたしか見えていない。苦しそうで、辛そうで、痛そうで。)」   (6/9 04:22:25)
しずま > 「(あぁ、この心も全部、嘘と言うのか。)」   (6/9 04:22:38)


骨牌/咲夜 > (蒸し暑い夏の空気を焦げ付かせたようなにおいは消えてかわりに名を呼ぶ声がした。悲痛な叫び声にも似たその音は咲夜の鼓膜を揺らすけれど、呪文を唱え続ける唇は貴方の言葉に応じることを許さなかった。ゆえに、ぽつりと落ちた血潮を見て見開いた目を更に丸くする、ぽたぽたとたて続けて落ちた血に呼吸が止まりそうになる。オウガの唇から零れた言葉は意味を理解することが難しく彼もまた混乱の極致にあることが伺えた。結果として、火津彌が床に倒れることとなったが、国で五指に入るだろう魔術師の間に喧嘩が起きたのだからオウガとて無傷とはいかなかった筈。病み上がりであるなら猶更だ。衝動的に火津彌を救ってしまったがそれは果たして正解だったのだろうか。あぁ、馬鹿だなと咲夜は何度目かの呟きをして俯いたまま泣き笑いのような表情を浮かべる。そういった感情を持つこと自体が間違いなのだと、そう思った矢先にふわりと蛍が飛んだ。命を焦がす小さな灯はあまりにも美しく、諦めにも似たため息が長い髪を揺らした、その時)   (6/12 23:14:59)
骨牌/咲夜 > ……これは。(瞳に映ったのは、幾重にも隠された俳句。その言葉の意味を理解するなと理性が警鐘を鳴らすけれど赤い痕の走った手が、そっとそれに触れてしまう。厚紙の表面を撫ぜる指先、すぐに引き攣った皮膚に痛みが走り、まるで熱いものに触れたみたいに手が離れた。その腕を胸元へ引き寄せて頬をなぞると細かな凹凸が木の枝のように首筋を通り顔へと続いているのが分かった。どうやらこの胸に満ちる感情は儚い蛍の光のようなものだったらしい。この時だけの夢ならばせめて自分で引導を渡すべきだ。咲夜は眦をそっと拭うと火津彌の身体を横たえて立ちあがる。やっと貴方の呼び声に応えることができた)   (6/12 23:15:15)
骨牌/咲夜 > ……オウガ。あなたにだけは、見せたくはなかったが、これがわたしだ。呪で傷を隠し、時間の流れさえも偽って(顔をあげて貴方を見上げる。その白い顔には罅割れたように赤い痕が走り、瞳や口の端の位置が不揃いだ。歳をとるのを恐れるあまり下手に抵抗したせいで身体の成長が歪になってしまっている。こんな姿を見れば貴方はきっと幻滅してしまうに違いない、けれどそれでいい。感情を偽るよりはずっと楽だ。いつものように背筋を伸ばすと背中に痛みが走り眉根が寄るがせめて去勢を張ろうと声を高くした)永遠をつくりあげ、人を騙す化け物。あぁ、血が流れている、本当にわたしというやつはなにをやってもうまく出来ないな。ずっとそう、人より長生きしている癖して、呪ひとつうまく出来やしない。せめて最期に貴方の傷を治させてくれないか、それで死ねたら本望だ。そうしたら骨すら残さず消えるから、服は井戸にでも投げ込んで、人を呼んで火津彌を預けてそれで、胡蝶の夢だと忘れておくれ。(血を流す貴方に向かって手を伸ばそうとして、やめた)   (6/12 23:15:24)


しずま > 「俺の、せいで…(柄にもなく、そんな声を溢した。忌々しく、自分の頭の中のようにまだ熱い拳を睨む。自分を、睨む。…本物の記憶はまだ、おぼろ気だ。気づく前に、気づいてしまう前に、あなたを、あなただけは、救わねば…)俺は、鬼だ…(歯を食い縛って、苦し紛れに一つ呻いた。オウガのその威圧感が、焦げた夏の臭いとそう言うのならば、あなたのその言葉は、「死んでもいい」とそう彼に伝える言葉は、その彼にとって凍らせた冬の臭いだ。…あまりにも冷ややかすぎるだろう、その答えは。)なんで俺が、お前に手を伸ばしたと思ってるんだ…!(上がりかけていたその手を掴んだのは、命を諦めようとするあなたを見つめたのは、その鬼であった。)俺は、咲夜、最初はあんたがきれいだったから。そうだ、そう思ったからだ。(ここで、あなたから声がかかるだろうか、かかるまいか。どちらであろうと、その後の言葉には心を感じるだろうが。)」   (6/13 18:42:16)
しずま > 「でも!あんたと、お前と出会って、お前と話し合って、それだけで俺の心は突き動かされたんだ!(叫ぶ度に、角の付け根が痛む。血が溢れる。)お前の生き方が好きだ、お前の声が好きだ、お前の心が好きだ。…この感覚は全部、お前から貰ったものだった。(でも、本当に心の込めた言葉のはずなのに。血と同時に、自分の心が抜け出していく感覚がする。薄っぺらな言葉しかそこにはないと、そう感じてしまう。心は本当にこもっている。でも、それをオウガは自分で疑ってしまうのだ。あなたに思うその気持ちが本物なのかわからない…気持ちが、悪いのだ。…もう、耐えられない。)」   (6/13 18:43:07)
しずま > 「死ぬな、死なないでくれ…!お前がどんな姿でも、俺はお前が好きだから…!(掠れる声でそれだけ言い残すと、ぐらりと急に鬼は倒れた…気絶したかに思われた…しかし、血はもう止まっている。それはオウガの本能から出た最後の意地というものだろう。鬼の生命力を活かし、体力を全て使って、その傷を閉じたのだ。オウガは、眠っている。…恐らくは、寝ればあの夢ははっきりとまた現れて、その心をまた、もっと強く、縛り付けるだろう…それでもあなたを救いたいと。オウガは、そう望んだのだ。生きてくれと、そう。…あぁ、あなたに届くだろうか。ああ、届いてください。…鬼の目も引く胡蝶蘭よ。)」   (6/13 18:43:27)


骨牌/咲夜 > (繰り返される言葉を聴いて咲夜はふっと微笑んだ。貴方の言葉はまるで炎のようで人の心を熱くさせ凍り付き止まっていた歯車を動かそうとする。それは七夜にして消えてしまう頼りなげな灯ではない、海に出た迷い人の行く末を照らす灯台のように万人を導き王国に希望を抱かせるのだろう。もし貴方が貴方でなかったら、わたしは貴方に惹かれなかっただろうし、貴方が貴方でなかったら、もう少し長く貴方をこの国に引き止めていられただろう。貴方の言葉に、存在に、救われたのはわたしだけではない筈だ。貴方と同じ時間を過ごすほどにそう強く感じて、なぜか少しだけ寂しくなって、拭った筈の涙が頬を伝った。貴方はわたしを好きだと言う。初めて人に好意を寄せたわたしと違い、貴方はこれまで様々な女性から思いを寄せられ、そして彼女たちを愛したのだろう。けれども、貴方にここまで言わせたのはわたしだけだ。貴方を救ったのも、貴方に血を流させたのも。貴方は痛みに歯を喰いしばってなおわたしを生かそうとする。そう思うと貴方を慕う人たちに僅かだが勝てた気がした)   (6/18 20:45:18)
骨牌/咲夜 > ……オウガっ!(ぐらりと傾げた貴方の巨躯、慌てて手を伸ばすが間に合わない。勝利感に酔いしれてなんとするのか。すぐに脈をとれば鼓動は速いが呼吸はしっかりしている。命の危険はないだろうがどうか……。あの時、貴方がそうしたように手を伸ばして貴方の頬に触れる。指先から伝わる体温にこのまま貴方の言葉だけを心に抱いて逝けたらどんなに幸せだろうかと願った。貴方の目が覚めた時、一夜の夢と消えていられたら。けれどもそれは自分だけの幸せだ。わたしがいなくなれば貴方はきっと自分をせめてしまう。貴方という人の思い出に残れるならそれも幸せだが、大人にならねばなるまい、廊下を大挙して走る足音に咲夜は顔をあげた。   (6/18 20:46:03)
骨牌/咲夜 > 貴方の覇気で気絶していた兵士たちが気を取り戻し、増援を連れて戻って来たのだろう、これまで築き上げてきた自分という象を崩す醜態を見られることに手足の先が寒くなったが、貴方に貰った言葉を思い出し、この場を収めるのは自分の役目だと言い聞かせて襟を正す。容姿の美醜がなんだ。上手く言いつくろって倒れた貴方に治療を受けさせねばならない、それに火津彌のこともある。せめてもと軍服の上着を脱ぐと貴方の背中にかけると代わりにと短冊を胸に忍ばせた。そうして立ち上がると到着した兵士たちに向かって毅然と顔をあげて告げる。)……鬼はいません、もういません。(ぎょっとした顔を見せる兵士たちの動揺も咲夜の瞳には映っていなかった。しっかり双眸を開いて庭園を見詰める、夜空を舞う蛍の光。もしも再び貴方と言葉を交わす機会が得られたら、貴方に貰た以上の言葉を、心からの言葉を返そうと思う。夏の夜空を彩る星の光のような小さな灯、それは胡蝶ではないけれどもしも貴方の感情が夜の幻ではないのなら――あぁ、幸せが飛んでくる)〆   (6/18 20:46:12)