この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

朝焼けの追憶-父-

(ビナ)

レモネード/ビナ > ((薪の揺れる炎は、わたしの心のようだった。)『なぁ、ビナ。』「な、なに。いきなり………」(男性にしては、高い方の声がビナに呼びかける。薪が弾けた。)『母さんと、父さんが会った頃の話だ。眠れないだろう。聞かない?。』「………うん。」(考えてみれば、そんな話はあんまり聞いた覚えがなかった。少し、ぼーっと火の粉が舞い散るのを見届けながら、父さんの話を待つ。)『あれは、本当に良い恋愛だったよ。』「旅団の中で?」『いや、元々は、僕が旅団にいたんだ。旅を続けながら。立ち寄ったとあるスラムの街に、本を持った少女がいた。』「…………」(お母様の事だろう。それを語る父の顔は、いつにも増して楽しそうだった。)『その人はね、魔術師の才能があった。そして、何より『ヨズアの民』を、自分たちを憂いていた。本だけで知った『言葉』だけで、彼女は立派に言の葉を紡いで見せたさ。』(往古から、魔力とは言葉に宿り、魔術を使う魔術師とは、言葉を知る者とされている。当時から、あの求道者ぶりが健全だったのならば、その話も無理な話ではない。   (6/5 10:22:47)
レモネード/ビナ > 凡そ、ウェンディア辺りの本を持っていたのだろう。ヨズアの民らしい、盗んだ言葉だった。わたしは、早く刺青をして、父さんとお母様の役に立ちたいのに。お前はまだ早いと相手にしてもらえない。つい最近は、ずっとそんな焦ったい思いをしていた。)『僕は、その子のヨズアを救いたいという想いを汲み、その子を旅団に入団させた………。母さんだよ。まぁ、当時からあんな堅物って感じだったから、僕が先輩だったんだけど、いつの間にか、僕は立場が逆転してしまってね。』「あー……」(やっぱり、思った通りだった。冷えついた頬、乾いた涙の跡が残る頬に、少し笑顔が戻った。)『あっはは。そうして、二人で行動するようになって………でもね。ある日突然、旅団とは離れてしまう。あんまり、話したくない内容だから割愛するけども………旅団の意思と、僕らの意思が乖離してしまっている事に気が付いたんだ。』「………」(任務のことだろうと、予想は容易についた。)   (6/5 10:23:05)
レモネード/ビナ > 『そこからは、あんまり僕らは、旅団には従わないようにしたんだ。その代わりに、【言葉の探究】をするようになった。前から、二人で話していたんだ。僕らは、戦ってヨズアを救うなんて立派な事は、荷が重すぎるって。魔力が宿るという言葉そのものの真髄を確かめ、総てを暴く。その追求をしていけば、いずれシュクロズアリ様がしたような、ヨズアだけの呪文を………いや、ヨズアの旧い神々を取り戻せるかもしれない。そうして、ヨズアを救いたい。そう、思ったんだ。』「……そう、だったんだ………。」(それは、とある二人の大きな決断だった。今までの常識に囚われず、ただひたすらに言葉そのものを追求する。終わりの見えない、帰り道もわからない、探究の旅。舗装された旅路だけじゃない。敢えて未走路の、草林に飛び込み、過酷な旅を選ぶ様の、なんとヨズアらしい自由意志。)   (6/5 10:23:24)
レモネード/ビナ > 『そうして、二人で色んなところに行って、回っているうちに、僕ら二人は愛し合っていた。だから、僕らは婚約の儀を行った。二人だけの、秘密の婚儀をね。』「………なんか、素敵。本に書いてる、物語みたい………。お母様が、母上が一方的に熱を上げたと伺っていたけど。」(それを聞いた父さんは恥ずかしそうに顔を赤くさせた。炎に照らされた、オレンジ色の光でもわかるくらいに。)『そう、だったね。』「口説き落とすのに何年もかかったって。お母様、絶対言葉に嘘はつかないから………。父さん、ちょっと隠したでしょ。」『娘の前くらいカッコつかせてくれよ……ほんと、母さんに似てきたな………。』(それはわかんないけど。でも、なんだかいい話を聞いた。凄く、ロマンがあって、カッコいい恋愛を、しているなと。)「素敵だなぁ……」『そう、それ。』(わたしの言葉に、不意に食いついた。)   (6/5 10:23:44)
レモネード/ビナ > 『感情が起こった瞬間に出た言葉に、力は宿る。喜怒哀楽、それ以外の感情もそうだ。母さんは、ローザンは、感情とは爆発で例えていた。感情も、爆発も、起こった瞬間が一番強く、後は弱まるばかりであると。その起こった瞬間に、無意識の内に口に出た言葉は、時に呪文よりも強い。人を殺す魔術にも、人を癒す魔術にもなる。その術理を修めた時こそ、探究の終わりであると。ローザンは、よく言っていたよ。』「………はい。わかりました。」(とても難しい。やっぱり、お母様の言う事は難解だけど、今初めて父さんに解説され、少し分かった気がした。そうか、確かに。面白い。それをわかる父さんも、童顔でなんかかわいい父さんも、今、最高にカッコいい言葉の探究者だった。)『そうだ。一つ、ビナに行っておきたい事があったんだ。』「う、うぇ、な、なんだろ……。」(俄かに、薪がまた弾ける。)『刺青の話さ。母さんはまだ早いと言っていたけど、次の街に着いたら、入れることにした。』   (6/5 10:24:01)
レモネード/ビナ > 「えっ、ほんと?!どこっ、どこにするの?!」『だ、抱きつくんじゃない!母さんが起きたらどーすんのさ……!この話は、秘密だよ?』「わっ、ひ、ひみつ……?ん、わかった。」(少しくらい、はしゃいでもいいじゃないか。お母様は、夜に弱くて、起こしても中々起きないくらいに眠りが深いから、バレないでしょ。)『それでね、よく聞いてね、ビナ。』(急に、空気が重くなる。な、なに、この感じ……。父さんの言葉が急に重くなった。これは、知っている。父さんが真剣な話をする時に、こうなる。)『僕たちは、ビナの額に、僕らが今まで探究した総てを込めた刺青をしようと思っている。ローザン、母さんの決定だ。』「え、えっと………?」『これは、暗色文字でもない。既存の信仰でもない。刺青は君の『目』となることを、よく覚えておいて。君の目は『総てを見通す目』だ。だから、一から君が総てを作らなければならない。これから旅を進めて、強い言葉を自分で見つけ、それを使って呪文を紡がなければ、この刺青の意味は無い。』「そ、それって………」   (6/5 10:24:16)
> (よく、わからなかった。その、言葉の意味が。)『でも、ね。ビナ、いつかは、その目を閉じなきゃいけないよ。ビナ、もし君が、自分の全てを委ねてもいいと思う人が現れたら、婚約の儀によって、その目を閉じる事になる。』(想起するのは、ヨズアの民の婚約の儀。夕陽の、赤。赤。)『その人の総てを見通す事は、きっとできないから、目を捨てるんだ。』『その事を絶対に、忘れないでね、ビナ————)『……ぇ』(な、なに………)『……メ………ェ………』(あ、もう朝か。)『メェ〜』(目が覚めると、ガフの黒い顔が目一杯に広がっていた。起きた事に気がついたガフは、嬉しいみたいにペロペロビナの頬を舐めた。)「ど、どしたのさ〜…ガフ!そんなに舐めないっ、ひゃ、ふふふっ、くすぐったいってばぁ……!………あ、……あれ?」(やだ、わたし、なんで、泣いて……)「わ………ガフ、ありがとう。涙、拭ってくれてたんだね………」(やっぱり、この子はとても優しい子だ。怖がりだけど、だからいつも誰よりも先に危険に気がついて、わたしを何度も救ってくれた。この子がいなかったら、わたしはとっくにダメになっていたかもしれない。   (6/5 10:24:39)
レモネード/ビナ > むくりと起き上がると、欠伸をしながら大きく伸びをした。小気味いい骨の鳴る音が心地よくて癖になる。玉響の微睡。そして、横を見た。そこには………)「わ、わぁぁ…………」(言葉を失った。見事な、朝焼けだった。反対側はまだ夜で、でももう向こうは夕焼けのような烈火だった。)「もしかして、これを見せたかったの?ガフ」『メェ〜』(自慢げに、羊はのんびりと鳴いた。———なんだか、とても懐かしい夢を、見た気がする。父さんが出てきた。本当に、涙が出そうになるくらい懐かしい、追憶。)「そっか。」(朝焼けの燃える世界を賞翫する。)「大丈夫だよ、父さん、お母様。」(わたしは、ちゃんと見つけたよ。言葉を。この目の使い方を。)「『揺籠の微睡ㅤㅤ嬰児の安楽ㅤㅤ孺子の逡巡ㅤㅤ壮者の猛りㅤㅤ老輩の達観ㅤㅤ人間の断片ㅤㅤ夕陽の玉響ㅤㅤ揺らめいてㅤㅤ主は洞観すㅤㅤㅤ———ダー・ニト・ロロイ・シュクロズア』」(【神はそこにいる】。私たちを、ひっそりを見つめるだけ。そんな信仰で。自分の見つけた力強い言の葉を紡ぐ。そんな言葉で。朝焼けは、瞬時、夕陽に挿げ替え。そして額の瞳は、持ち上がった前髪によって顕となった。)   (6/5 10:25:01)
レモネード/ビナ > 「行こ、ガフ。ちょっとご飯食べてからね。」(まだまだ、ビナの探究の旅は、始まったばかり。激化し、泥沼へと沈んでいく混沌の三国。悪意、涙、憎悪、愛、戦争は人を終わらせることができるのに、人はなぜ戦争を終わらす事ができないのだろうか———)「だいじょうぶ、虹はかかるよ。」   (6/5 10:25:16)