この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

夕陽の誓い

(ビナ)

レモネ/ビナ> 「うぅーー……これじゃあ結局なんもかわんないじゃーん……。」(周囲一帯に調合具をぶち撒けたような乱雑さが目立った。この立ち込める独特の青臭さは、さまざまな薬草によるものと、煮詰めた緑色の液体から放つものである。何やらレシピや調合式のような字がビッシリと埋め尽くす羊皮紙が所狭しと散らばっており、その上に空の小瓶がゴロゴロとランダムに転がっている。そのエントロピーの高い荒涼とした光景は、この部屋の中心にて頭を抱える少女の心象風景を模写し、具現化したもののようだった。三国を襲った悲劇の雨。ビナが【命の水】と呼んでいる人を壊す悪意の水。それに侵された人々を救うべく、戦う少女の一人。それがビナである。この悪魔の所業を実行に移したヨズア人、シュクロズアリ旅団の尻拭いとして、同じヨズア人である自分が戦わねばなるまい。その揺るがない決意一心で、この巨大な悪意と闘っていたが、見ての通り難航を極めた茨の道は、ビナを充分に苦しめていた。)「がぁぁふぅぅぅ……ねー、わからんー…お腹空いたー集中力きれたぁーーっ!」   (4/29 21:54:15)


レモネ/ビナ> (ばさぁっ!と両手で持っている先ほどまでずっと睨めっこしていた羊皮紙の束を、投げ出すように思いっきり上にぶち撒けてた。難解の雨に打たれたビナは隣にずっと微睡む相棒の羊、『ガフ』に甘えるように救助を求める。ふわふわの綿飴のようなその毛並みにぼふっと、体のほとんどを埋めて、温もりを体全体で感じた。)「あー…むりっ、しわあせすぎ……わたしもうなんもかんがえたくない……」(重力を忘れさせるような感覚を独り占めだ。だって、もう考え過ぎた。考えて考えて、徹夜でなんとか答えの糸を手繰り寄せようとするも、その糸はまるで逃げるように探せば探すほど遠ざかる。耐え難きを耐える今でこそ、こんなことをしていられないのだが、ビナは少し今、ダメになっていた。自暴自棄、という捉え方でも正しい。少し、自分の力だけでは限界を感じ始めた頃合いだ。【命の水】の特効薬。その道を歩くには、ビナの小さな一歩一歩は、あまりにも小さ過ぎる。これでは、間に合わない。)「出かけよ……薬草の買い足ししなきゃ。鞄持ちしてー、いこーよー、がふぅぅ……。」   (4/29 21:54:32)


レモネ/ビナ> (なんて言っている本人がぐでーんとしているのを、哀れむような目をやる取りつく島一号、ガフ。ビナの言葉を理解したのか、自分に埋もれるビナを荷物のように引き摺り、気分転換にワンポールテントから外に出るビナと羊であった。————ウェンディア王国、王都ウェントの某日某所。寄生するように、そのデカい羊にひっつく黒衣の旅人、ビナはその寂れ具合に一層心を痛ませた。人々の顔から笑顔が剥がれ落ち、明日の我が身も知れぬ恐怖に翳る顔ばかりが目立つ。まるで、戦争に負けたかのような、民衆の落ち込みぶりだ。それもそのはず。彼らの大切な人たちは皆、水に狂わされている。何に狂わされているにも分からず、いつ自分も狂うのか暗い雲を心に封じ込め、死体のように冷たく生きていた。今通り過ぎた駆け足の団体は、王国聖騎士たちだろうか。どうやら、各地で水に狂わされた人間が暴徒と貸しているらしい。敵国の兵ではなく、護るべき自国の大切な民に、兵が使われる。彼らの心情を推し量れたものではない。すぐそこでは、両親が狂ってしまったのだろうか、助けを乞い涙を流す子どもがいた。ごめん、ごめんっっ、ごめんなさい……!!   (4/29 21:54:53)


レモネ/ビナ> 自分が悪いわけでもないのに、胸が苦し過ぎて、逃げるようにそこから逃げ出した。ごめんなさい、わたしがもっと凄かったら、薬を完成させれていれば。 駆ける小さな背中に背負いきれない荷物に、ビナは自嘲する。何も、わたしが背負う物ではないでしょうに。でも、一度決意をした胸に手を当てて、小さく呟いた。)「助けると身勝手に自己決意して、それで声も届かぬ所からわたしが涙を流し、かける言葉が″ごめん″では、情けなさ過ぎる……っっ!!」(噂を聞いた。風の噂という物だ。薬草屋で新しい薬草を調達した帰りに、聞いた。路地裏では、水を求める狂人がますます増えている噂。ヨズア人の猛攻が泣きっ面に蜂のように刺すという噂。そして、ウェンディア聖騎士に中に、『毒』と『薬』に適性する魔術の司祭がいるという噂。どうやら、アロマにも詳しいという、その司祭の字は……『ガデューカ』。藁にもすがりたいビナにとって、これ程までに有益な情報を手に入れたのは幸福であった。まるで蜘蛛の糸だ。一縷の希望。雨雲の隙間から、一筋の光が、ビナに道を示す。)   (4/29 21:55:15)


レモネ/ビナ> 「ガデューカ司祭……訊ねる場所が増えたね。」(目標が定まったビナは、もう羊にひっつく小さな少女ではない。人を苦しめる雨に立ち向かう、勇者の一人だった。世界に虹をかけよう。雨垂れの音を、涙の音である必要がないことを、世界に気づかせるのだ。そのためならば、わたしはどうなってもいい。薬を、特効薬を、治療薬を、わたしたちは、必ず完成させて見せるのだ。それが、あの決別の夕陽に、誓ったビナの決意の一つだから。もう、病気で苦しませる人間の顔は『見たくない』。)「———行こう、ガフ。 わたしたちの戦いは、まだまだこれからだよ。」(雨が止むのは、近い)   (4/29 21:58:08)