この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

命の水-治療成功-

(糸依&獅子唐)

ぽぺ/糸依 > (帝國軍の管轄する基地内部。そこは混乱と狂気を孕み、唸りひしめく人々で溢れ返っていた。作られた天災は容赦の欠片も見せず、今も尚老若男女や貧富をお構いなしに潤いの狂渦へと引きずり込んでいる。麗しの水に犯された人々は掬いの手と救済を求め、そして己の欲の渇きを満たす為に元凶である水を求める。……しかして、此処に入ってくる人と出てゆく人とは決して均等ではない。未だ治療法の確立せぬ忌々しき病。この時代において魔術とは時に歴史を創造する。……企みか成り行きか、はたまた無意識か。)「……もし、獅子唐殿。糸依にございます。治療を開始したいのですが…………少々、身体を起こすことは可能にございますか?」(幾度目かの訪問、もう群衆を哀れむ気持ちすら、水で薄まった絵の具のように淡くなっていた。この人達を見捨て、今日とて私は博打に手を汚す。賭けるものは多くの命、そして同胞。簡易設置の椅子に伏した彼を……獅子唐の肩をそっと右手で揺すり、もう片方には古めかしい本を抱えて。やつれの露となった顔にはクマがこびりつき、瞳は暗く沈んでいる。しかし決して、私が倒れようと心が果てようと、それでも止まることは許されないのだ。)   (4/27 20:58:10)


山葵:獅子唐> ……ぁ、あぁ…。……糸依くん、か…。……すまない。ボーっとしていた。何だい?(椅子に凭れたまま、この阿鼻叫喚を眺める。地獄と比喩しても何ら差し支えないこの光景に意識が跳びかけていたが、右肩をそっと揺すられる。ゆっくりと色付きの眼鏡の奥で瞳を開く。目の前には、随分とやつれた表情の同胞。)……どうしたのかな?…ボクに何か、急用かな。……ぁあ、治療。…少し、待っていてくれないか。(この地獄絵図の中、極めてまともそうにも見えるこの男。しかし、普段は感動詞しか出てこないその口は、かなり達者に回っている。ゆっくりと椅子に腰掛けると、此方を真っ黒い瞳で見つめてくる糸依にこう呟く。)……もしボクが、治療の最中にキミを殺そうとしたら…。……ボクを殺して欲しい。…勿論、そうならないようにはするけれど。(椅子に腰掛けたままで、しっかりとした口調で彼は呟く。)   (4/27 21:15:28)
山葵:獅子唐> 「光煌く所に闇蔓延り、咲かすは逢魔時、散らすは黎明。雲は低迷、空は曇天。今こそ影が地を覆い尽くす時。我が身を捕らえ、締め付けよ。」(その瞬間、獅子唐を椅子に縛り付けるように真っ黒い闇が、彼の手足に巻き付き)……これは気休めにしかならない…。……先程も言ったが、その時は…。…最悪の事態が起きた時は、頼む。   (4/27 21:17:56)


ぽぺ/糸依 > 「……随分とつれなきことで」(どうやら雨に侵された患者の中でも、症状というのは異なるらしい。大方は喚いているが、衰弱しきって寝込んだままの者も決して多くなく、目の前の彼に至っては何ら気がふれたような素振りは見られない。いつもの彼はもっと寡黙で、これ程迄に饒舌ではなかった筈だ。変貌ぶりや深度は異なれど、皆して欲望に従い自己主張や幼稚さが表に顕著に現れている。……ゆっくりと体を起こし、色の世界から此方を見つめる彼に、なるべく疲弊を隠したいのは山々なのだが、此方とて隠すのは下手くそなのだ。きっと貴方には私の体調が優れぬことなどバレているのだろう。)「……しかと聞き届けまして候。必ずや、貴殿に私を殺めさせませぬ」(狂気の渦の中、私に託す形で彼はお願いを持ち掛けた。彼もまた、己の真髄と……欲と、格闘しているのだろうか。魔術を詠唱する彼と視線を水平にするように、そっと屈んでは軍帽を頭から取る。期待に応えよう、そう覚悟を固めて……いや、期待に添えるかなどわからない。貴方に私を殺させずとも、私は貴方を殺すかもしれない。汚すならば徹底的に、という訳ではないが、今更だ。彼の願いを踏みにじるなど、言語道断。)   (4/27 22:17:04)
ぽぺ/糸依 > 「……一つ、此方からもけしきばかりの御願いが。失礼ながら、拘束はそのままで障害はないので、左手を少し拝借しても??」(屈んだ状態のまま、持参した本り……皮の色ををもっとくすめたような、埃色の背表紙のそれを床に置き、紐の栞を挟んだ頁を開く。太古に於いてん医療は生命に一時的な歪みをもたらすものである……という一説がある。生命と生命の干渉が治療を促す………とまぁ、詳しいことは専門外なのだが、この文書に準えるのならやるべきことがある。命の源、心臓に繋がる左の紅差し指と、第二の心、脳と術者を……私を繋ぐ行為。恥じらいなど、一々感じていられるものか。)   (4/27 22:26:53)


山葵:獅子唐> ……?…こんなもので、良いだろうか?(左手を拝借しても、その言葉に首を傾げるも、相手からの頼みを大人しく聞き入れ。とは言え、異性と手を結ぶと言うことはやはり羞恥心もある。表情には現れないが、空いた右手を握り締め手の中では汗が垂れている。)……これには、どんな意味が?(彼女は博識だ。きっと医学的なものや心理的なものだろう。しかし異性と手を繋ぐなど母親以外では初めてで。この狂気に呑まれそうな中でも、意識しない方が難しい。嗚呼もう、こんな事ならばいっそ理性を無くして狂ってしまいたかった。)…有難う。ボクは……ボクは、いくじなしだから。…随分と…。(そう眉を下げ視線を何処かへと逸らして、しかしもごもごと言葉を詰まらせながらも何かを決心したのか、顔を上げると糸依の顔を見つめ)   (4/27 22:48:13)


ぽぺ/糸依> 「ええ、これでよろしゅうございます。……このやうの由は。私と貴殿、二つの生き物を繋ぎ一とすること。ほぼ形式のようなもので効力の程はわかりませぬが…………暫し辛抱なされ。」(差し出されたのは、自身のものより一回り大きな手。彼の左手の掌を上にして、私の右手はそのまま掌を合わせるようにして触れる。貴方が此方の行動を認識していることを確認すれば、余った左手を貴方の額の左側へと滑らせる。不安の色を交えた貴方の声を聞けば、配慮が足りなかったかと少し反省する。語りかけるように、言い聞かせるように、己を暗示するように説明すれば、実感が、失敗の記憶が捲られて。失敗は嫌だ。そんな恐怖が、治療の前ににかけるべき『大丈夫』の言葉を失わせた。彼のものか私のものか、手の繋ぎ目にじんわりと汗が滲む。)「__“せちなる願ひ ためらふ諭し 護れはらから まさなしあくた かづくきこえ いとしおぼえ 万憂へ 吾と我の結 今世に誓ひ おこたる者となし”………っっ!!!」(鼓動を共有し、思考を溶かし、一に混ざり二に分離して。陳列する文字を青の瞳で追い、噛み締めるように詠唱する。……お願いだから届いてくれ。もうこれ以上、死なせたくないんだよ。)   (4/27 23:28:36)


山葵:獅子唐 > ……ふむ。(生物を一繋ぎする。それは超常的なものであり、効力は分からない。その言葉に、そのもじゃもじゃとした髪の毛を揺らし分かった、と頷く。子供に絵本を読み聞かせるような優しい声が響き、心が安らぐ。自然と「ありがとう」なんて言葉が溢れ、ああ、また柄にも無い事を口走りそうになり口を閉ざす。)……ッ、は……ぐッ……!(呪文が耳へ入ってくる。心臓が締め付けられるように苦しくなってくる。前回はこんな事は無かったのに。己の中で渦巻くどす黒い感情が、嵐のように牙を剥いてくる。「殺せ!!自らを狂わせようとするその女の首筋を貫いてしまえ!!」)……黙れ、黙れッ……。…ボクは生きている、己の意思で、決めているッ……!(独り言を苦しげに呟く。額には青筋が浮かび、脂汗が垂れてくる。ダメだ、このままでは。)…ッ!!!(ぶち、と。魔術の効力が切れるのが分かる。伸ばされた白い手が彼女の肩に掛けられ、噛み付かんと姿勢が前倒しになり。…呪文の終わりと共に、事切れたようにばたり、と顔面から地面へと倒れ込んだ。)………(しかしながら、しっかりと握り締められた左手だけは離れる事がなかった。)   (4/27 23:45:05)


ぽぺ/糸依 > (使い慣れぬ呪文だからだろうか、それとも治癒というものが特別体力を使うものだからか。火津彌佐官と二人で治癒にあたっていたときとは比べ物にならぬ程の重たい衝撃がぎちぎちと身体を締め上げるような錯覚に陥る。ぼんやりと靄のかかった視界が捉えたのは、苦悩に悶える貴方の姿。私と繋がれていない右手が此方へと、獲物を捉えた食者のように伸びてくる。……さて、いざとなればその鬱陶しい色をした眼鏡に指を突き刺して眼球を潰してやろうかと思ったが、困ったことに手が塞がっている。屈んでいて下半身の自由が制限されているとなれば、残るのは頭突きだ。眉間めがけて突撃すれば此方の頭は割れないだろう、痛そうだけど。………と、朦朧とする中かなり危険な思考を巡らせていたのだが、呪文の終わりの音を鳴らした途端、標準となる彼の顔は糸が切れたように地面へと落下してしまった。……うわ、痛そう。__でも、怪我の心配より先にやるべきことがある。)「もし、獅子唐殿……お気は確かですか、水は欲しゅうございますか……ッッ??」(繋いでいた手を一度ほどき、羽織っていたマントを脱げば横たわった彼へそっとかける。……成功か、失敗か。)   (4/28 00:16:30)


山葵:獅子唐 > ………ぁ…はー…(布が掛けられる感覚。次に、顔面にヒリヒリと熱されるような痛み。ゆっくりと手を伸ばすと、何とかサングラスが割れていないのを確認する。上から振る「水は欲しいか」ろと言う言葉に首を横に振ると)……あんなに喉が乾いていたのが嘘のようだ…。(とだけ答え、余計な雑談をしようと口が開かれることもなかった。…一瞬意識を失う前に、彼女が良からぬ事を企んでいそうだったことに文句の一つでも言おうと思ったが、今はそんなことはどうでも良く。)……有難う。(気分が良い。胸元に渦巻くどす黒い感情や、水への欲は消滅していた。これは恐らく、治療が成功したと言う証だろう。彼女の羽織りを畳んでから返せば、ずれたサングラスをかけ直す。)   (4/28 00:39:39)


ぽぺ/糸依 > 「誠か………! よ、かった…………ぁ、っ???」(問い掛けにも問題なく応じ、この原因不明の病の症状である異様なまでの水への執着も消えた。礼儀正しくマントを畳み、どこか以前より無愛想な彼を見るに……恐らく成功したのだと予想する。疲労を上書きするように笑顔をはべらせ、マントを受け取ろうと手を伸ばして__突如として世界が落ちた。否、私が膝から崩れ落ちたのだ。安堵?解放?震えた足では思うように立ち上がれず、座り込んだまま己の羽織を受けとる。治療が必要ないのであれば、もう彼が此処に留まる理由もない。私のことは構わずに先に撤収するように伝え、彼の背中を見送って…………)「……ぁ、う。成功、救えた。そう………たすけ、られた……彼だって、きっと………ッッ!!!!!」(一人救えたところで、私の手は潔白になど戻らない。一度罪を被った者は、償えど清まることはない。嗚呼、やはり助けられたんじゃないか。喜びをかき消す後悔に苛まれ、濡れた睫毛を隠すように、腕の中のマントに顔を埋める。……ごめんなさい、ごめんなさい。そんなか細い謝罪は、誰の耳にも届かなかった。)〆   (4/28 00:59:19)