この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

命の水-発症-

(フィヨルド)

(喉が燃えるようだ。全身のありとあらゆる箇所が渇いたように感じる。御神体が…神たる我のこの肉体が、よもやこの様な病擬きに屈するとは。吹き荒れる氷雪が、容赦なく身体を打ち付ける。)ぐぁぁぁっ…!!!この程度の出血で、なんたる屈辱か…おのれぇ……!!(打ち付けた氷が、弱った右腕の肉を削ぎ取り、少なくない量の鮮血を撒き散らす。神を名乗る男は、実に十数年ぶりに苦悶に満ちた顔を浮かべた。ここが、人の子が立ち入ることができぬ聖域であったことに心から感謝したほどである。このまま、我が死すことだけはあってはならない。急いで降りなくては…)邪魔だッッ!!!!退けぃ下等動物共ッッ…!!!!!(行手を阻む猛獣共を、氷の魔術で串刺しにして、その辺に放り投げる。山が紅く、黒く染まっていく。その様子の一切に興味を向けず、男は街へ向かうのだ。)(男が街へ着いたのは、実に1時間後。民衆の様相は、神にしては大層愉快な事になっていた。地べたをのたうち回る者や、悲鳴をあげ拒絶し続ける女を痛ぶり、頭を潰して楽しむ者、童共が群がって老人を切り裂く様。以前よりも随分と活気に満ちているではないか、と笑みを浮かべた。人の箍を超えてしまった者共が、つまらぬ凶事に手を染め、一時の快楽に浸る。実、醜い夢だ。覚めてしまえば待つのは絶望のみであろうに。)フ…フハハハ、ハハハハハッッッッ!!!!!!!実に、実に楽しいぞ人間共ッ!もっともがき苦しめ!その様を我に見せるのだ!人間よ、神たる我に牙を剥く事を許可しようッ!さぁ、来るが良いッ!!!(苦しかったのが嘘の様に、フィヨルドは大笑いをした。せめてもの気晴らしだ、愉しませてもらうぞ、人よ。持っていた杖を器用に回してから、地面に突き刺す。向かってくる人間の首を素早く掴み、締め上げ、後続に向けて投げ飛ばす。倒れ伏す人共の首目掛け、杖の先端を投げ付け、串刺しにする。喉が潰れ、かすれ気味の断末魔が聞こえたところで、神はどこか満足感を得ていた。殺戮を楽しんでいる、と思われてもおかしくはない。無謀にも我に挑む罪人どもを潰すほどに、以前にも増して高揚感があった。全身を支配する苦しみが、薄れていくのだ。そうして、神もようやく理解する。『人は神の子、神は人の父』ということを。この苦、この楽こそが我を神たらしめる何よりの証明なのだと。)いいぞ、いいぞ人間共ッ!我を愉しませろッ!足りぬ脳でも塵芥になるまで愉しませ続けるのだッ!!ウルゥヴォダよ、天を、地を穿てッ!大地を歪め、地上の外敵を焼き尽くせッ!(杖を天に翳し、その名を高らかに宣言すると、杖は呼応するかの様に、光を放ち、冷気を充満させる。光に包まれ、薄く霧がかった結界のその先に立つそれは_______________正しく神そのものであった。)