この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

命の水-発症-

(竜灯)

ダイス出目86【発症/竜灯視点】

「───はぁ⋯⋯っ!!な、なん⋯⋯ぜ⋯」((夜の帳の降りた帝都榮郷。仕事を終えて羽織に軍服姿のまま帰路についていた竜灯は、誰も居ない路地裏で蹲っていた。どくん、どくん、と心の臓が別の生き物のように強く熱く脈打っている。瞳を見開いて、胸元に当てた手を握り締め皺を作りながら、竜灯は口元から僅かに垂れた涎を袖で拭う。ぐるぐると回る思考、息が苦しいような気がしたのも束の間、頭の内はえも知れぬ多幸感に包まれる。⋯耳を澄ませば聞こえてくる花街の喧騒。鼻を擽る酒精の匂い。視界を彩る美人。⋯⋯⋯なんという、なんという⋯⋯)「⋯⋯っくっくく、ふ⋯⋯へへ。⋯⋯こがなとこ、いる場合じゃ、ないっ、ぜよ。さけ、⋯⋯っへ、ふふ⋯」((ふらふら、と立ち上がると焦点の合わない黒い瞳を彷徨わせ、幽鬼の様に肩を揺らして歩きながら、何度も壁にぶつかっては手で体を支え。⋯⋯もう少し進めば大通りに出る所までやって来た。やって来たのに。道の先から差し込んでくる街灯りに視界がぐらりと歪み、崩れ。壁に背中を預けると、すとん、と腰を落とした。羽織の背中には大きな家紋が描かれており、それを『誇り』とまで称する竜灯が背を壁に擦り付けるというのは、普段では絶対に有り得ない行動であった。しかしそんな事を考える余裕など竜灯には無く。何処かネジが外れてしまったかのように、瞳を細めて笑い続けていた。)「⋯⋯は、ははは⋯⋯!⋯⋯っへへ⋯。ふ、ふ⋯⋯」((───『俺は罹らんぜ、健康じゃきに。』帝都で流行りの病の噂を耳にした竜灯はそう言いふらしていたが。その結末が、この有様だった。