この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

命の水-発症-

(獅子唐)

【発症/獅子唐視点】
ざあ、ざあ。
降り注ぐ雨達が歌う。雨に打たれた建物は楽器のように音を奏でている。
雨の日は憂鬱である。暗くどんよりとした空気が低迷し、辺りに漂っているからだ。
しかし任務は遂行しなくてはならない。今日は見張り番の日。身体を凍えるような雨から守る為にローブを
着用し、外で塔の上から辺りを見回す。

「………おかしい…」

やけに騒がしい。野生の動物達が、気でも触れたように鳴き叫んでいる。
共喰いしたような痕跡もあった。それに…仲間の亡骸から溢れる血を舐めている個体も存在した。
嫌な胸騒ぎに眉を顰めるが、その日の任務は何事もなく終わり帰路へと着いたのだった。
雨に濡れた身体は冷たくは無かった。否、寧ろ熱い。気味悪く感じ、さっさと拭き取った。
そのまま布団に篭り、自室で眠りに着く。

……体温の上昇を感じる。血液が沸騰するのが分かる。今、世の中の全てが全て自分の為に動いているのがハッキリと感じられる。曖昧な考えは取り払われ、確信へと変わる。己が神にでもなったような気分だ。泉下の人々と意思疎通が出来る。世の中がスローになっていき、今散ろうとする花が落ちる音さえ分かる。雨が降るスピードが極限まで遅く見えて、分子の先まで、神の領域まで、森羅万象の八百万の神と一心になる。繋がっている、今ならそう感じられる。喜び、高らかな笑い声を上げ…

「生きている…!」

生まれて初めて、生きていると実感した。