この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

叙任式

(アッシュ&レフィーネ)

しめさば/レフィーネ ◆ > (煉瓦造の竃の前に座り込み、レフィーネは灰をかいていた。ここはアッシュの塒、通称〝秘密基地〟。尤もそう呼んでいるのはレフィーネひとりだけであるが……。王都へ帰還したその夜はここで眠り、今朝その足で彼を騎士団本部へと連れて行った。そして副団長との話や仕事を済ませて『先に帰りますね』の言葉を残し、再びここへ戻ってきたという訳だ。…まるで押し掛け女房、そのうち寮も引き払う事になるだろうな、などと考えながら慣れない炊事に四苦八苦しているのだった。……千騎長がついていたから罵詈雑言を浴びせられるような言葉をないだろうけれど、今日のアッシュは恐らく、食事を作る余裕など無いだろう。)あっ、あれぇ……ど、ど、どうしてでしょう。難しい……。(灰かき棒を握りながらレフィーネはぽつりとこぼした。野菜を切るところまではなんとかやってみたのだが、どうにも火の扱いが難しい。薪につくことはつくのだが、勢いがつきすぎたりつかなすぎて消えたり…。薪はともかくマッチも無限にあるわけではないし、これは困ったと首を傾げて灰を見つめる。もしかして竈に灰を入れておくのには、何か理由があったのだろうか。)   (4/9 19:37:42)


クノ/アッシュ > (傾き掛けた陽が街を照らす、夕刻のウェンディア王都。解れかけのシャツとズボンに身を包む黒髪黒目の青年、アッシュ──もとい、バッシュは一人帰路についていた。半年前からずっと、出歩く時は共にあったみすぼらしいローブは今は無く、見晴らしの良い視界と篭らずに口腔に侵入してくる街の空気に懐かしさというよりは、何もかもが一新された様な感覚を覚える。灰色だった世界には色が付き、シャットアウトしていた全てがありのままに直接感じられる。その為か、足取りは相も変わらず重いものの、今までよりは幾分か背筋が伸びているようにも見える。もしかしたら、身を覆い隠すローブを纏っていない故なのかも知れないが。)   (4/9 19:55:00)
クノ/アッシュ > 「⋯⋯はあ⋯。」((⋯だが、やはりというか。漏れる息は確かな疲れを孕んだもの。よくよく見ればその表情にも少し影が差している。逃げ続けて来た彼が悪いのだが、激動と言えるここ数日の出来事は少なくない疲労とストレスを与えたようで。『今日の夕飯はどうしようか』なんていつもの思考すらも、そこから先に進めなくなっていた。⋯⋯こんなの、別になんて事無かった筈なのにな。一人がこんなに虚しく寂しいとは思いもよらなかった。今までとは違って、今日は気付かないフリすらも出来そうにない。自宅が近くなるに連れて足が一層重くなるのを感じながら、何とか辿り着き、扉に手を掛けて。)   (4/9 19:55:03)
クノ/アッシュ > 「⋯⋯⋯⋯⋯リ、⋯レフィーネ⋯⋯?」((蝶番を静かに軋ませて、眩しい西日と共に顔を見せたバッシュは、かまどの前にしゃがみこむ小さな影に、困惑の表情を浮かべた。言いかけた何かを呑み込んでから言い直しては、片手に下げていた紙袋を、木製の丸机の上に置く。横向きになった紙袋から覗くのは、見覚えのある青色を基調とした衣服。綺麗に折りたたまれた新品のソレは、新たな彼の制服だ。そのまま君の横にしゃがみこみ、その視線の先を見つめてみれば...直ぐに理解出来た。くす、と苦笑いを浮かべたりする訳でもなく、、黙って君が握る灰かき棒に手を伸ばし、掌を一瞬重ねてからそっと取り上げたら、散らばった灰をかまどの中へと戻していく。)   (4/9 19:55:11)
クノ/アッシュ > 「⋯灰は、無闇にかき出しちゃいけないんだ。⋯薪を燃やす時、火がつきやすくなるから⋯。」((かまどの中を眺めながら、落ち着いた声でそう説明し。十分に灰を戻し終えると、灰かき棒を傍らに置いて。ちらり、と切られた野菜に視線を向けてから今度は足元に落とし。しゃがんだ膝の上に腕を預け、その下で両の掌を組みながら、ぼそぼそと何やら口にした。)「⋯⋯⋯態々、すまん、⋯その、ありがとう、レフィーネ。」((ちらり、と最後に君を見つめると、瞳だけを何処か優しく細めるのだった。   (4/9 19:55:20)


しめさば/レフィーネ ◆ > (ぎい、と軋む音がして土間の近くの扉……玄関と呼んでいいのかすらもわからない小さな入り口が開き、西日とともに黒い影が現れる。眩しさに少し目を細めて瞬きをするとようやく見る事が出来たこの部屋の主の顔に、レフィーネはほっと息を吐いた。その手には紙袋を提げていた。)……あ、アッ…いえ、ええと、バッシュ…さん、えへへ、おおおかえりなさい。(紙袋の中身は聖騎士団の制服であろう。レフィーネはあなたを呼ぶ名前に躊躇い、少し口ごもる。バッシュと呼ばなければいけないのだった、罪から目を逸らすなと言ったのは自分自身であるし、あなたにとって苦々しい記憶のあるこの名を呼ぶのは、多分、必然。心の中で呼ばうあなたの真名は狭い寝台の中でこっそりと呼ぶ時のみ、許されるのだ。仮にも二人とも魔術師であり聖騎士なのだ、誰が聞いているかわからない場所で無防備に口にすることはできないだろう。騎士の証であるその紙袋を卓上に置き、何も言わずに土間にしゃがみこむあなたを見て少し横にずれて竃の前を開ける。灰は、あるべき場所に戻っていった。)   (4/9 20:28:56)
しめさば/レフィーネ ◆ > ……あぁっ、やっぱり……そ、そうだったんですね。あ、あー!わわっ、わたしが普段おおお料理してないの、ばればれですね……(悪戯っぽいようなはにかむような笑みをこぼして、灰を見つめる。その様子にふと、昨日出会った少女……ビナのこと思い出して、ぽつりぽつりと他愛のない話を零しはじめた。)……昨日、あっ、アッシュさん……じゃなかった、バッシュさんが、王都に着く前、例の噴水に、いいっ、行ったんですよね…。……あの、そこで、おおお女の子と、出会ったんです。……魔術師で、ヨズアの……民でした。(その話を聞いてあなたはどう思うだろうか。竃に火をつけようとするあなたの心を波立たせないよう、間髪を入れずに言葉を次へと紡ぐ。語り部のようなゆっくりとした口調で。)……わ、わたし、魔術師だと、聖騎士だと言えなくて、逃げました。あああなたの事、何も言えません。……ごめんなさい。……何て、いい、言ったと思います?ふふ……わ、わたしね、花祭りの精なんですって、じ、じぶんでいい言ってて、お、おかしくって。(屈んだまま膝を抱えて、自嘲気味に笑って)   (4/9 20:29:19)
しめさば/レフィーネ ◆ > ……共犯ですね。(いま再び燃えようとしている灰から目を逸らし、あなたの瞳を見据えた。)……花祭りの精の話、知ってます、よね。枯れ木に花を咲かせましょー!……って、灰をね、蒔くと……花が咲くんです。わ、わ、わたしたちみたいじゃありませんか?……灰って……死と再生の象徴、なんです。不死鳥もそう。その灰の中から再生するんですよ………。……良き、字を付けられましたね。(竃の中の火は赤く、暖かい火になってゆく。春といえどこの安普請は肌寒く、まるで暖炉のように二人を暖めようとしていた。)   (4/9 20:29:37)


クノ/アッシュ > 「⋯⋯いや、まあ、これから覚えればいいさ。」((なんて事ない、たわいの無い話。少女らしい笑顔に当てられてか、すっとその瞳を竈の中に戻し。黙って火を起こす。料理くらい俺がいつでもやる、と言うのは簡単だけど、教えてあげるのまた、数少ない俺の役に立てる事のような気がして、何となく返した。⋯⋯ぱちぱち、と音を立てる火種の音を遮ったのはレフィーネ。いつもの様に、最初に口を開くのは彼女だった。)「⋯⋯ん?⋯⋯ああ⋯。」((一瞬視線を動かそうとしたのか手を止めて。本当なら火起こしなんて後回しで話を聞きたいところではあったが、何となくそれはレフィーネの本意では無いような気がして、小さく相槌を返すだけに留まり。)   (4/9 21:07:35)
クノ/アッシュ > 「⋯⋯。」((⋯花祭りの精。だがどうやら笑える雰囲気ではない。火起こしのは割かし慣れているから、他の事に気を割きながらでも出来る。今やバッシュの意識は結局、レフィーネに殆どが向けられていた。「いや、レフィーネは⋯⋯⋯⋯」と、視線だけを竈に向けたままその言葉を否定しようとしたが。続いた酷く甘い、俺達を結ぶ関係の名に、口を噤んだ。竈に火が点き始めたからか、それとも他の何かが理由か、じんわりと、それでいて急速に体が熱くなる感覚に、息を飲む。あの時のように、引き寄せられるように視線を向けたら、レフィーネもこっちを向いていて、目が離せなくなった。火の世話をしていた筈の腕を力無く落とし、視覚と聴覚を全て注ぎ込んで、レフィーネを感じようとした。)   (4/9 21:07:37)
クノ/アッシュ > 「⋯⋯そう、なのかな。⋯⋯⋯俺は⋯」((『そんな立派な存在じゃない。』未だ完全には消せない罪の意識に、ゆっくりと視線を落とし。瞳に竈の中の『火』をちらちらと映す。⋯⋯それはあの人のような人を指すんだろうな、きっと。⋯でも『炎』のようなあの人のようには、きっと俺は⋯⋯。さっき会ったばかりの、体格も人柄も何もかもが大きな男の姿を脳裏に映しながら⋯床に胡座を搔いて、寂しげに何かを求めるように、自分の両手をしっかりと絡み合わせたら⋯⋯ぼそり。心の中で呟いた自分を卑下する言葉は呑み込んで、貴女を上げる言葉を選んだ。)「⋯⋯確かに、そうかも、な。⋯レフィーネは綺麗な花みたい、だから。」   (4/9 21:07:47)


しめさば/レフィーネ ◆ > (竃の火に向かい合いながらゆるゆると視線を落とし、力なく言葉を紡ごうとするあなたを見つめた。前と違うのは言葉に宿る魔力だけではなく……自分を卑下する言葉を飲み込み、選ばれた言葉からも感じ取ることができた。綺麗というあなたの言葉を受けてレフィーネは照れ臭そうな顔を両手で顔を覆い、その次にはあなたへ返事の代わりに抱擁を返した。)……あ、アッシュさんは、やっぱり、アッシュさんです。再生、しましょう。……これから、い、い、いっしょに。(呼び名に戸惑う自分の為の都合の良い解釈かもしれないけれど。レフィーネが出会い愛したのは紛れもなく、屈強な百騎長のバッシュではなく、獣のように繊細で、今にも倒れそうだったアッシュの方だった。あなたの背中に手を回しての短い抱擁、そして少し離れ、両手で肩を掴んで顔を合わせてにっこりと笑みを向ける。立ち上がり、床に座っているあなたを俄かに見下ろす。その手には、長い灰かき棒を手にして。)   (4/9 21:35:19)
しめさば/レフィーネ ◆ > ……信念をもって誓いを立てるべし、志ある者よ。(その台詞は独特の節回しで、少し旋律に似ていた。レフィーネは右手に持った灰かき棒をあなたの肩に乗せ、続きを詠唱する。) 剣をもって己を律し、義をもって悪を裁き、品をもって礼に応え、慈をもってか弱きものを護る事を。聖騎士、字をアッシュ。これより叙任を執り行う……太陽の名の下に。(騎士叙任式の刀礼を真似した、戯れのような真似。剣とは鍛錬を怠らないこと、義とは道徳を重んじること、品とは礼節を欠かないこと、慈とは人に親切にすること。聖騎士は、魔術よりも先にこれを叩き込まれるものとされている。こんなご時世ではその限りではないけれど、レフィーネは覚えていた。あなたはバッシュとして一度叙任を受けているから、きっと二度目は無いだろう。だから、代わりに……。手に持っているのは儀式用の聖剣でもない煤けた灰かき棒で、目の前の相手は女王陛下ではなく、罪に塗れたほんの幼い自分だけれど。レフィーネはまた照れ臭そうに俯く。あなたはこんな戯れに、乗ってくれるだろうか。)   (4/9 21:35:37)


クノ/アッシュ > ───少しは、成長出来ているのだろうか、変われているのだろうか。心の中で投げ掛けた問いに、返事が返って来る事は無い。故に答えは見つからない。自分では少なくとも、頷く事は⋯できなかった。竈の火は簡単に点いたのに、彼の心はまだまだ燻ってばかり。火を点けようとしてくれた千騎長とは裏腹に。一番大切な人の答えは。)「⋯⋯レフィー、ネ⋯。⋯⋯⋯」((優しく体を包み込んだ、レフィーネの温かさにバッシュは、弱々しく名を呼ぶことしか出来なかった。静かに燻っていた炎は、愛にしっかりと包まれて、レフィーネ以外を取り込めず再び灰に戻ってしまう。同じように言葉ではなく、返事は抱擁で返そうと腕を僅かに動かした所で、回されていた腕は解かれてしまい。行き場を失った腕を再び落としながら、すぐ近くにあるレフィーネの笑顔にただ小さくこくり、と頷きを返した。   (4/9 22:14:31)
クノ/アッシュ > ⋯⋯そのまま、立ち上がるレフィーネを寂しげに視線で追いかけるアッシュだったが。徐に手にされた灰かき棒が肩に乗せられ、紡がれ始めた歌のような言葉に、はっとした。今までは忘れようとしていた記憶だが、確りと記憶に刻まれていた。そのまま黙ってレフィーネの言葉を目を閉じて、どこか心地良さそうな表情で聞き届けてから。アッシュは片膝を立てて項垂れると、静かに返答を紡ぎ始めるのだった。)「⋯⋯はい。⋯誓います。」((二度目ではあったし、正式な言い回しでも無い、ただ短い了承の言葉だった。それでも、アッシュに取っては忘れられない大事な誓となるだろう。何故ならば────息を呑んで間を開けて、今から口にすることは、誰にも言えない秘密の誓であったから。)「⋯⋯⋯貴女の剣となり盾となり、戦い、そして⋯⋯───尽くします。」((小さめの声で呟いた言葉は、確かな不義であり、罪だった。罪深く温かい叙任式は、ひっそりと、秘密の場所で執り行われた。)〆   (4/9 22:14:33)