この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

出会い

(ビナ&レフィーネ)

ビナ > (雲間から差し込む、透き通る大きな布が空から地上へひらひら伸びてくるというような日差し。昼下がりの重みの無い透明な、しかし暖かな陽光は春祭りが終わった王都ウェントの初夏の気配をそっと呼び込んでいた。絡繰を発展させてきた王都は、大いに発展していて、石畳の舗装された道に、立ち並ぶ建物は全部が巨大でえも知れぬ異国の建築様式に心が躍る。ここウェンディアという国は、その歴史からか、肌の色も、髪の色もさまざまで、ヨズア人特有の褐色の肌も、ここではあまり目立たない。三国はどんぱちと戦争中であるが、国の中心のここでは、例の祭りの浮かれがまだ薄っすらと残っているようで、しかし祭り終わりの寂寥感もやはり漂っていた。)「うぁ〜……私ってば、もっと早くに来ればよかたのに…下手こいちゃった……」(そんな街に、一人の少女と、一匹の羊が並んでてくてくと歩いていたか。小柄な体躯に、年季の入ったサイズが合っていないダボっとしている、あるいはずんぐりむっくりとしている分厚い旅装備の少女、字をビナ。
ビナ > 続けて隣に彼女の歩幅に合わせて歩く羊はガフ。彼女の旅の同行人で鞄持ち兼、乗り物兼、家族兼、寝具である。その見てくれもそうだが、特にビナをすっぽりと影で覆い尽くす程の巨躯の持ち主である羊の存在が、道ゆく人たちの視線を奪っていた。その視線の殆どに珍し物見たさの欲があって、でも旅人なんてそう珍しい物でもなく、すぐに視線は離れる。そんなこんなで、ビナはひどく落胆していた。なんせ、毎年恒例の″花祭り″目的で寄ってみたものの、すでに終わっていたなんてオチだったからだ。最後に参加したのは数年前だったが、そのか時の煌びやかな思い出がずっと頭に残っており、いつかまた行きたいとずっと願っていたというのに。)「はぁー。ガフ、ねぇ、ガフ。私つかれたから、ちょと休憩。ね、いいでしょ?ガフも、うん、すごい疲れたもんね。重たい荷物背負って…」(ということで、すこし開けたところで人やすみと洒落込もう。そこには噴水の水滴が眩しく輝くところだった。そこに腰を下ろし、ガフも休ませる。足がじぃーんと疲労を訴えていたのでちょうどよかった。分厚い本を取り出して、読みかけのページまでパラパラと飛ばしてしまって。
ビナ > 天頂の柔らかな陽光に虹色に輝く泡-あぶく-と、しゃらしゃらなんて音を聞きながら、あぁ、祭りはないけどいい昼下がりだななんて、ビナはこのウェントを満喫していたか。)「ふぁ……眠いね、ガフ。ね、すごいよね、この国って。色んなこと、いっぱい起きて、それが重なって、今があって、私たちはそれを満喫してる。幸せじゃないかな。『言葉』だけじゃ伝わらないことも、ここにいるだけで伝わってくるよ。」(———これだから旅はやめられない。それは誰の言葉だったか。確か、父の言葉だった筈だ。なんだか、自然に出てきた言葉だった。旅の醍醐味はいつもそうだと語ってくれていたが、その意味を最近、わかってきた気がする。その大きな大きなガフの頭を優しく撫でながら、本の細い線のような文をなぞっていた視線を、あっちやそっちにやりながら、ガフに語りかけようか。ㅤㅤㅤㅤㅤㅤ————本当に、戦争なんてなくなってしまえばいいのに。>しめ鯖さん


レフィーネ ◆ > (ミトラ防衛を終えて、レフィーネはようやく王都に戻ってきていた。久しぶりの王都は花祭りが終わったばかりだからか静かで、昼下がりの気だるい陽光が酷く長閑だった。戦いで汚れた騎士団の制服を脱いでどこか開放的な気分になりそうな自分を律しながら、石畳の上をとことこと歩く。……ゆっくりはしたいの山々だけれど、そうもいられない。ミトラで起きた事の報告、それから帝國と共に落としたシントの処遇についても会議は待たれるであろうし、ともなればあれについても早く片付けてしまわなくてはいけない。先代百騎長、バッシュ……彼を騎士団に戻す事。たぶん彼の心中は穏やかではないだろうけれど、それも自分がなんとかしてみせるしかない。ふう、とため息をつきながら思考の海に潜っていく。 『空腹 鶏 卵 養鶏……名前……野菜 畑 朝市 秘密基地……シンシア 騎士団 千騎士長 副団長 騎士 私が守る まだ 何処……仕事 最初の 戦争 帝國……きっと 反撃 わたしも ……ハーモニカ 返さなきゃ……死にたくない けど でも……故郷 谷 鳥 おかあさん……引っ越し 寮 傭兵さん……夜 大丈夫? わたし……でも 寂しくない たぶん……』) 
レフィーネ ◆ > (ひとり沈思黙考にふけるレフィーネの思考回路は独特なものだった。頭の中では淀みなく言葉が紡げるせいか、膨大な量の情報が浮かんでは消え、シナプスを行き来する。誰かと向かい合って話をしている時にはきちんと文法を組み立ててから口にするのだが、普段自由にアウトプットできない分、思考は時折こんな風にぐちゃぐちゃになるが、それも彼女のみ知る事。あまり深く潜水していたせいか、噴水のある広場まで来てしまっているのに気づかず、はっと足を止めた。……まずレフィーネの思考を強制的に止めるかように目に入ったのは、大きな大きな羊の姿だった。)……あ、ひ…ひつじ……。(その声は間が抜けたように長閑な広場にふわりと響きわたった。続いて目に入ったのは、羊に負けず劣らずもこもこした容貌の小さな女の子。恐らくは移民なのだろうけれど、ウェンディアの服を着る事もなく遊牧民らしい伝統的な趣を感じさせる色合いや雰囲気はこの王都で、すこしだけ目立っていた。なんだか、以前の自分を思い出させるな…と思いながら、しばらく羊と女の子を眺める。)
レフィーネ ◆ > (『…羊 谷 元気かな あの子達……似てる この子 私と 前の……少し目立って 伝統的 小さいし いくつ? 歳下?……かわいい。 もこもこ。 ふわふわ。 なんだか眠そう。……本 言葉 魔術 違う 多分……きれい。きれいな足 きれい… きれいな髪。』初めは遠くから眺めて思考を巡らせていただけなのに、次第にあなたに引き寄せられてとうとう目の前まで来てしまった。……レフィーネがこれほどまでにぼーっとしているのは、戦争で張り詰めた緊張の糸が切れたからというのもあったかもしれないし、あまりに多くの事が起きすぎて本人にも処理しきれていないのかもしれない。あるいは単に、温かくて気持ちよさそうだったからかもしれない。羊と、あなたが。)……あ。……えへ……こ、こんにちは。……す、すごい、ですね。羊……こ、こ、こんなに大きいの、わっ、わたしの故郷でも、見たこと、ありません……。び、びっくりして思わず近づいてしまいました……。けど、お、脅えませんね?おっ、おとなしい、ですね。この子。) 


ビナ > 「うぇ、あ……。」(綺麗な声。まるで、せせらぎのような、しかし凛とした引き締まった声。『言葉』が揺らいでいる。しかし、芯のある雰囲気。———歪。吃音症か、それとも話すことが慣れていないだけか、声に出して口にするのが苦手なのか。どうあれ『魔術師』特有の『言葉』の強さを君から感じるが、しかし君はつっかえつっかえでまるで呪文を唱えるにはお話にならない。そんな歪さな雰囲気が、ビナが目の前のエルフ耳の少女への第一印象だった。)「び、びくりした……。あ、——うん。えへ、デカいけど、いい子でしょこのこ。私の家族なんだ。うん、だいじょぶ、今疲れてるし、尚更大人しいよ、ん。ほら、——ね?」(なんていって、そのもこもことした毛並みを、ふわふわと小さな手で撫でてみたり。ほら?なんて、ニコッと微笑みながら確認をしてみて。それに対し、ガフは眠そうな目で君を見るばかりで、あくびのように『めぇ〜』と鳴くだけでそれ以上は何もなかった。恐らく、ここ最近花祭り見たさ急かしていたこともあり、疲労しているのだろう。
ビナ > ほんとは、もう少し元気なのだけれどね。本日は少々ぐったりしていた。それに、結局″後の祭り″、なんて結果だったが、旅は追い風向かい風、坂道下り道色々ある。きっと今は、向かい風で、坂道なんだろう。でも止まない風はないし、坂道だっていつかは下る。あまり、こういうことでいじけてられない。これは母がよく言っていた、好きな『言葉』だった。とても、力ある、元気になれる私のおまじないでもある。本には乗っていない、私だけの魔法の言葉。)「ってか、うそうそ。その口ぶり…君も私みたいなぁ……えと、旅人だった…とか?色んな国歩いたり…。それとも、それと似たような、えと、遊牧民族の出生みたいな……————いや、やめよか。初めて会う人には失礼だよね……ごめごめ、うそ。今の内は聞かなかったことにして。ほんと。」(ビナは余計な詮索はしない人間だ。旅先、問答で得られる言葉に重きを置こう。それ以上は失礼だし、なにより、後ろ髪を引かれる羽目に陥るから。別れが辛くなる。繋がりが強いと、いつ死ぬかも分からないこのご時世、出国の時に一層辛くなってしまう。今生の別れになるかも知れないから。
ビナ > だから、ビナはあまりこういう会話は避けるようにしていた。いや、怖がっていると言った方がいいか。だから、ビナはふるふると首を振って、申し訳なさそうに君に頭を下げる。曰く、過ぎた話をしてしまったと。だから、次に出た言葉は、まるでお茶を濁すような語り始めで)「————あ、のさ。えとっ、私、一応薬草とか。その、擦ったものとか、抽出したものとか、あと乾燥させたものとか売ってるけど……買う、かな。ごめん、ちょとっ、強引に話変えちゃったけど。ごめん。」(話の曲げ方が露骨だったが、君はやるしてくれるだろうか。君の端正な顔から逃げるように、ガフに括り付けている荷物の方に視線を寄らして、不安からか早口になりながら君に商品を進めようか。元々、花祭りを満喫する予定だったから、懐が浅いなんてことは無いが、それでも緊急で会話を曲げたものだから、元の話題から乖離した藪から棒な話題に移ってしまって。噴水の飛沫の乗った柔らかい風が、ビナを笑うように背後から少し吹き、ビナの凝乳色の髪を濡らした。)>しめ鯖さん


レフィーネ ◆ > (ふわふわとした羊の毛に小さな手をぱふ、と埋めて撫でるあなたを見て、レフィーネはたまらなく愛しい気持ちを覚えた。いつも人に少し身構えて、嫌われないように愛想を取り繕っていた頃の自分からは想像もできないような気持ち……この大きな羊が居るおかげかもしれない。あくびのような鳴き声で羊はあなたに返事をして、そのあまりにも牧歌的な光景に目を細め、笑みをこぼす。)…ふふ。……え、あ…わ、わたしは……
レフィーネ ◆ > (あなたの言葉に返事を返そうとするも、あなたがふるふると首を振って別の話題に変えたのを見て、初めはピンとこなかった。何故?と心に疑問を落とす程でもない、ただレフィーネにとっては「見過ごす」としか言えない機微。しかしそれはあなたのあまりに素直な締めの言葉で、ああ、そうだったのかと腑に落ちることが出来た。…話題を変えようとしてくれたのか、自分を気遣って。目の前の小さな少女の気遣いを無碍にするのも野暮だろうか、柄にもなくそんなことを考えながら口を開いた) 
レフィーネ ◆ > ……や、薬草、ですか。すごいです。小さいのに……が、がんばりやさんですね。ええと、じゃあ、どうしましょう。実は草って、た、沢山手に入るんです…え、えーと……魔……その……ちょっとした事情で。で、ですからその、ううんと……。あ、あなたの時間を少しだけ、買ってもいいですか?……わ、わたしとおおおしゃべりしてくれたら、いいので……。こ、これこそ失礼だったら、すみませんっ。(わざわざ聴かないようにしてくれているのにうっかり素性を話してしまいそうになる。やはり自分は根本的に、隠し事や湾曲表現をするのに向いていないなと思いながらレフィーネは一生懸命、あなたの話に合わせた。)……えーと、わわっ、わたしは、ですね。うん、花…花祭りの精なのですよっ。かっ、枯れ木に花を咲かせましょー!って……知ってますよね?
レフィーネ ◆ > それは、ウェンディアに伝わるおとぎ話めいた伝承。移民ならば知っているはずであるし、もしかすれば他国の人間でも、本を読んだりするのが好きだったりすれば知っているかもしれない。その程度には有名な、おとぎ話。まるでばかばかしいと思われても仕方のない嘘を吐いたのはレフィーネなりに精一杯あなたに合わせようとした結果でもあったし、幼くて可愛い少女にはもしかしてこういうのが受けるのではないかといった発想からだった。噴水の水があなたの頭にかかり、王冠のような花のような形を様しながら跳ねて消える。)……ふふ、ほら、さ、咲きました。ね?(その光景をありのまま口にした後、説明をするように噴水を指を指す。花の様な形で、水の球が跳ねては消えていた。) 


ビナ > 「が、頑張り屋さん、なのかな……。えへっ、ちょと、うれしい、かも。ん………ありがと。ちゃんと嬉しいよ。そう言ってくれて。」(継ぎ接ぎのようだけれども。しっかりとした意志を持って『言葉』にしようとするあなたの方こそ、″頑張り屋さん″という単語が似合うのだけど。なんて口にするのも恥ずかしいので口腔の奥にその言葉は押し詰めて飲み込んだ。しかし、君の褒め言葉を聞いて、面映い気分になり、熱を持ち始める自分の顔を見られたくなくて、顔を下に向き、膝の上に乗せた本を撫でながらそう唇を尖らせながら言った。単純な言葉にこれだけ喜んでしまっている自分が、背中が擽られる程に恥ずかしいのだ。しかし、頭の中であなたの言葉を思い返せば、さりげなく小さいと言われてるのにショックを受け、なんとか持ち直すか。)「魔……?あっ、うぇっ…?わ、私の時間…?別に、いいけど…タダでもいいし…。ここの街の人とも、話しておきたいなっておもてた…から、さ。」  
ビナ > (あなたの言葉の中に、何か言いかけた気がしたが、君の何度も吃音癖に上書きされ、気のせいかと、ビナは独りごちる。しかし、彼女は私と話したいと言ったが、何だろうか。やはり、この戦火の烈しさを増す時代にあまり国境を跨ぐ私のような旅人は珍しいだろうか。確かに私のような人種は話題に尽きぬだろう。私に旅の話を語らせれば、昼食も夜食も忘れて今から夜中まで語り尽くすことができる。なんて、流石にそんな事はしないが。)「うぇぁっ?!そ、そなの?!ビナ、びっくりっ!————あ、え、でも、もう終わってるけど……その、花祭り……」(遅れているような気がするその自称花の妖精さんに、私は跳び驚いた。まさか、実は妖精さんと話していたなんて?!これは、どこかの本で確か読んだことがある。ここら辺では比較的メジャーな伝承で、なんでも木枯しに曝された緑一つない枯れ木に花を満開にさせるというあの?!なんて、童心を擽る浪漫ある話にめっぽう弱いビナはそれはもう見事な食いつき様だった。しかし、しかしだ。その、時期が少々ずれているような気がしてならない。だって、もう花祭り終わってるんだもん!)  
ビナ > 「ふぇあ…ほ、ほわぁぁ……」(でも、あなたのかけてくれた優しく綺麗な魔術は、まるで本当に妖精さんがかけてくれたみたいで、幻想的だった。水晶のような水の雫。煌く宝石のような流水は、それこそアクアマリンのようで、あなたの魔術にすっかり見惚れていた。)「やっぱし、そだったんだ…」(この光景が意味するのは、あなたは『魔術師』であること。それ以上でもそれ以下でもなく、ただただ同遠回り仕様にも横たわるそれが現実という壁が邪魔をするばかり。でも、それはビナの予想の範疇内に留まる出来事。だから、ㅤㅤㅤ———予定変更だ。すこし、実験をしよう。)「きれーだった!すごいね、妖精さん。えへ、なんだか驚かせてもらっちゃた。……ん、あの、ね。お返し、しなきゃ。———あのね、私も『使えるの』。」(そう言って、前髪を右手で書き上げ、その『証』が顕となろう。黒い、人の目を象った紋様の刺繍。それは、まるで某旅団、いや、わかりやすく言えば君の敵の証とも取れるもので。) 
ビナ > 「驚かないで聞いてね。そして、信じて。私の母と父は、例の旅団の元一員で、『言葉』の探究をしながら旅をしていた。うん、私の『コレ』も、その二人が旅団だった頃に、後を継ぐ意図で入れたモノ。んでもね、戦争が激化するにつれて、私たちの意思と、旅団の意思がそぐわなくなちゃて……はい、脱退したんです。」(思い返すのは、私が二人を置いて旅を続けると決めた日のこと。眩い燃え盛るような夕陽がたんと空に輝き、斜陽の暖かさと涙の冷たさをよく覚えている。その夕陽は、私の好きな夕陽ではなく———)「私の、唯一使える力ある『言葉』。私だけの、私のためだけの古い『言葉』。お返しに見せたげる。」(———泣ける程に痛々しい赤色だった。)「揺籠の微睡  嬰児の安楽ㅤ 孺子の逡巡  壮者の猛り  老輩の達観ㅤㅤ人間の断片ㅤㅤ夕陽の玉響ㅤㅤ揺らめいて  主は洞観すㅤㅤ———ダー・ニト・ロロイ・シュクロズア」
ビナ > (その瞬間、広場が一瞬赤色に染まるか。まるで、そこだけが黄昏時のように、影という影は長くなり、建物は朱に染まり、しかし、気づけば太陽は天頂にあるし、怖いくらいに何も変わらない昼下がりに戻っただけだっただろうか。。驚く程に何も起こらない。しかし…)「人の時は、断片に見れば、とても儚く短いもの。まるで『夕陽』のように。」(しかし、ビナは、ビナだけはその眠そうな目を。しかし確かな叡智をチラつかせる翡翠の目をあなたに向けながらぼそりと、唇の隙間から空気が漏れるような掠れた声で嘯いた。)「私は、そんな″今のあなた″の断片を、誰よりも知りたい。そんな、祈りの言葉。」(もう、あなたの考えている事は筒抜けだろうか。。) 


レフィーネ ◆ > (あなた…その少女は、ビナと言った。恐らくそれが名前なのだろう。花咲くように流れる噴水とレフィーネとをきらきらした瞳で見つめられ、少しこそばゆい気持ちになる。『わたしの力ではないのですが…まあ、いっか。』心の中でそう呟くと、あなたはお返しと言いながら額に手を当て、そのまま髪をかきあげた。顕になるその刺青――旅団の証に、レフィーネは一瞬身を固くした。『旅団 どうして ヨズアの民 移民じゃなかった? 戦う? この子と? ……油断 侮った 心を許してしまった。…… カグラ 帝國 大将 同じ轍…………大地にひれふす眷属よ つくばう蔓と木霊達よ。……あぁ、駄目。……神島 発った とある小隊……蔓延れ 腐生せよ 粛々と……駄目。……どうなった? ヨズアの領土 そう これは戦争……』
レフィーネ ◆ > (思考は風に舞う花弁のように一瞬にして散らばり、纏まりを失ってゆく。一瞬のうちに沢山の情報が脳に流れ込み、キリキリと音がするのではないかという程の回転。この複雑怪奇な思考回路こそが、幼きレフィーネが百騎長たる所以のひとつだった。思考すると共にあなたの言葉を脳に落としてゆく。それは、マルチタスクで行われる。)……脱退……ですか。でも、ヨズアの民……(声を一層ひそめて呟く。あなたに届くか届かないかの大きさで。あなたの唇から呪文が紡がれるのを耳にしながらも、あえて様子を見る。……宣戦布告かどうか。)……え…… 
レフィーネ ◆ > (優しい呪文だった。赤子に歌う子守唄のような、慈愛に満ちた響きだった。しかし次に現れた神の威を目にすれば、まだ警戒を解くことは出来ないと悟る。一瞬の黄昏、白昼夢でも見たのだろうか、錯覚だったのではないかと思うほどの光景……レフィーネは思考を放り投げて、いや、解放されたという表現が正しいかもしれない。たった一言、心の中で呟いた。)『…………きれい………。』(心と言葉が重なり、ひとつになる。レフィーネの唇から溢れ出た言葉は、あまりにも純粋だった。はっと我に返り、あなたに返す言葉を心の中で組み立ててゆく。
レフィーネ ◆ > 『魔術師だったんですね。 私も……いや、これは言わない方が……そう、この子はヨズアの民。駄目。……友達に……なれたら良かった……なんて、言えない。私に出来ること……』)……え、と……ま、待ってて下さい!わ、わたしも、お返し。(レフィーネは駆け出してその場を離れ、茂みに身をひそめた。そして戻ってきた頃には、その手に黄色いコスモスを手にしていた。あなたの髪の青いリボンのところにそれを刺そうと試みる。あなたが抵抗しなければ、そのままコスモスはあなたの髪を彩るだろう。) 


ビナ > 「そう、『それ』。」(唐突に、君の『きれい』という言葉に反応したように、ビナは満悦顔になりながら。)「心に思った事を無意識のうちに、口に出した『言葉』に、力というものは宿る。」(『思い』起こすのは簡単だけれど、『言葉』に起こすのは簡単ではない。言葉に起こすには、思ったことを篦棒に口にする訳にはいかない。大抵の言葉は、『思慮』というフィルターを通って、口に出るものだ。しかし、その内に『言葉』は心に起こしたものからは大きくかけ離れ、力が弱まってしまうという。だが——。)「心から泣いた。心から怒った。心から喜んだ。心から楽しんだ。そんな思慮のする余地もない状態は、心が剥き出しになる。その時に口にする言葉は、『あなた』を現す本当の『言葉』。『簡単』な話だけど、『感嘆』させる言葉は、きっとそんな『力ある言葉』なんだ。」
ビナ > (ビナは信じている。言葉に、そのような強い力が宿っていることを。力が宿った言葉はとても強力だ。怒りの言葉は相手の心を崩し、悲しみの言葉は相手の心をしんみりとさせ、喜びの言葉はこちらまで嬉しくなり、楽しみの言葉は心を弾ませる。まるで、『魔術』だ。言葉に魔力が宿るこの世界で、ビナは誰よりもその事を理解していた。) 「君の『心からの言葉』、聞かせてもらったよ。あはっ、綺麗、なんて。私も嬉しくなっちゃうな。私はね、そんな『言葉』の探究の旅をしてるの。————なんて……えへ、すこし、かっこつけ過ぎたかな……?あんまり、自慢げに話すよーなことでもないし。ん……ごめん、私ばっか話し込んじゃた…あはは。はー恥ずかしっ。」(それでも、あんまりビナは自分のことを話すのは得意ではなかった。なによりも恥ずかしいし、あなたはきっと快くビナの話を聞いてくれるだろうが、それでもだ。人を傷つけるのに、何も魔術はいらない。人を喜ばせるのだって同義だ。あなたは、ビナを確かに喜ばせてもらった。それだけで十分だったのに。)
ビナ > 「あっえ、な、なに」(君は何かお返しをすると言って向こうまで行ってしまった。ビナに伝わったのは『私にできること』。なにも、別に元々あなたとは敵同士のようなものなのに。でも君が手に黄色のコスモスを持ってこちらに戻ってくる姿を観た私は、あなたの考えが、魔術を使わぬまでもなくわかってしまった。)「黄色いコスモス……花言葉は自然美、だっけ。似合ってる、かなぁ…?どうかな…」(すこし、照れ臭そうにして、ビナは微笑む。『言葉』でなく、あなた自身の行動が私をまた嬉しくさせた。また、違うものだな、と、そう思った。)>レフィーネさん 


レフィーネ ◆ > (その少女、ヨズアの魔術師は自らを“言葉の探求者”と言った。だからだろうか、今までに出会ったどんな強い魔術師とも違う不思議な強さをその魔術に感じ、心からの言葉が出たのだ、『きれい』と。戦う為の魔術ではない、ただ言葉の為に言葉を放つ姿は正しく——“求道者”の姿であった。そんなあなたに何の花を贈るべきか、今度こそ花の精に己の心を占うと、咲いたのは秋の夕陽に染まったような季節外れの黄色いコスモス。…….あなたの髪を彩ったそれはクリーム色の髪と青いリボンによく映えて、風に揺れた。)……と、とっても似合っています。花言葉も……ぴったりですね。(季節外れのコスモスに、季節外れのの花の精。花祭りが終わり黄昏のように淋しげな雰囲気の漂う王都を旅するあなたへ少しでも伝えることが出来るのなら幸いだ。『ようこそ、ウェンディアへ。太陽のご加護がありますように。』それは“言葉”にする事は出来ない。聖騎士レフィーネはたった今だけ、あなたの目に写る自分が本当に花祭りの精である事を祈りながら…微笑んだ。)〆 


ビナ > 「ーー。」(ありがとうございます。そんな言葉が出る前に、その後すぐ、あなたの姿は見えなくなってしまっていた。もう、君の姿が見えない。短く切りそろえられた森のような緑。あなたから醸しだされる牧歌的な感じ。そして、ただ純粋に私の魔術をきれい、と褒めてくれたあのお花の妖精さんは。今度こそ、花祭りが終わることを知らせるように消えていなくなった。彼女が妖精のはず、ないのに。でも、信じてもいいと、とてもそう思った。太陽の加護があらんことを、とはこの国の聖騎士達の言葉だったか。そう、次は、今度こそ、花祭りに会いましょう。そう、長閑で平和な、戦争なんか無い、そんな花祭り。今度は私の話をもっと聞いてもらって、ヨズアの綺麗な所も沢山話したい。思い出も、楽しかった遊びも。ーーー)「  かえるとこ  もうないよ  」(独り。そんな掠れた、弱々しい『言葉』は、羊の眠そうな鳴き声に簡単に掻き消えた。)〆>レフィーネちゃん