この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

出会い

(ゼペタル&ビナ)

ゼペタル ◆ > (ヨズア唯一の領土・神島。そのほとんどがスラムや片田舎に過ぎないが、大通りだけは行商がちらほらと賑わいを見せていた。自由を愛するヨズア人達がその手先の器用さを駆使し口を糊するのにはお誂え向きな此処は、”自由市場”……そう呼ばれていた。踊り子の芸や、他国から技術を盗んだ工芸品。いつ立ち消えるかもわからない不安定さの中、そこは確かに”国”の様相を呈していた。ゼペタルは杖をつきながら大通りをゆっくりと進み、それを噛みしめる。…護らなければ、己とシュクロズアが勝ち取ったこの神島を。)……む?(ふと、嗅ぎ慣れない香りがした。獣のような匂い。しかし、生臭さはあまりなく、どちらかと言えば草食動物特有の干し草のあたたかい香り。……出稼ぎの遊牧民だろうか。ゼペタルはそちらへ引き寄せられるようにして歩みをすすめた。)……ほう、ここでは、家畜も売っているのかね?……食用か?騎乗用か?店主殿。


ビナ > (そこは、あらゆる物が流れ着くという。人も、物も、玉石混交。アクセサリーから妖しい魔法具。貧乏人から高名の魔法使い。なんだって揃う事実が、ここの混沌さを助長させていた。そのエントロピーの高い自由市場の喧騒を見て、自分は自分の自由を享楽していることであろう。この混沌さを目で見て、耳で聴き、口で味わい、匂いを記憶に叩き込む。今その場所、その時の人々の営みを、私は全身で感じるのだ。そうして出た言葉にこそ、『力』は宿る。目だけでは足りない、耳だけでは足りない、味だけでは足りない、五感を持って今を味わう。———なんてったって、こんなところ、いつなくなってもおかしくないのだから。)「安いよー。お買い得だよー。新鮮な薬草だよー。飲んで良し塗って良し煎じて良しの三つ揃って安くしとくよー。」(私が旅が好きな理由を再び自己定義し、分厚い本のページをめくりながら、間の抜けた声で商いをしていた。路銀はいくらあっても足りぬ物。道中で見つけた、薬にも毒にもなる草を調合して作った薬たちは、天日に干したものから擦ったものまで、色も青臭さもさまざまだ。


ビナ > 後ろに巨大な羊、『ガフ』に持たれて、赤い敷物を敷き露店を行う。本人が読書しながらのこんな調子なものだから、売れ行きはあまり良くないと思われるが、最近は戦争が激化し、こう言うものは需要が高まっているのでそこそこ路銀は重たくなっていた。そんな時、皺がれた老翁の声が耳についた。老人はいかにも干からびた声帯を単に空気が吹き抜けていくといった声で、私に話しかける。『言葉の重みが違う』。名の知れた魔法使いに違いないと吟味しようか。)「あっ、こんちわ…。えとっ、この子は私の家族かな。ㅤㅤㅤうん、いっしょに旅してるの。——だから、売り物じゃないんだ。あは、ごめんね。おじちゃん。」(どうやら、後ろのガフのことを尋ねていたようだ。歳を重ねた、皺だらけの朴訥としたお爺さん。しかし、その目は冴え冴えとしており、未だ現役といったようだった。なるほど、『こう言う人も、いるのか。』)
ビナ > 「あっ、えと、あれ。薬草買ってく?いいよいいよ、遠慮しないで。うん、おまけつけとくし、安くしちゃうからさ。これ塗ったりするやつ。んで、こっちのが飲んだり、煎じたり。苦いけど、効力はあるよ。ほら、使ってる私ってば、こんなに元気だし、あはは、なんだそりゃ。」(なんて、肩を竦めて売り文句の下手さに自嘲する。やっぱり、私は商いの才能ないや、なんて。)>おじいちゃん 


ゼペタル ◆ > (こちらの問いに返ってきた声を耳にし、ゼペタルは少し下、地面に座っているのであろうその少女のほうへ皺だらけの眼瞼を向けた。先程から間延びしたような声を出していたこの薬草売りが、曰く羊の主であったか。売り物ではないと言われ、己の無礼を素直に詫び入った。)……そうであったか、いやいや、儂こそ申し訳なかったよ、お嬢さん。家畜が欲しい訳ではなかったが、なに、このご時世じゃ遊牧民の商いも苦しい状況ではなかろうかと、つまらない老婆心を起こしてな。…そうか、薬草を鬻いでいるのか…。……ほっほっほ…よく口の回る、元気なお嬢さんだ……。……魔術師になんか向いていそうじゃ…のう?(ローブの袖からシュクロズアリ旅団の刺青を見せるともなくちらりと覗かせまま、両手を杖の上部に乗せた。生憎丸物は持ち合わせていない為少女の役に立つ事は難しそうであるが……。しかし、とある経路からこれから尊華の襲来がある事を知っていたゼペタルは、戦の役に立つのならば賄っても構わないだろう、後で彫工の旧友を呼んでくるかと思案した。) 
ゼペタル ◆ > ……そうだのう。…長生きはしたいもんじゃ。(心にもない返事をして、好々爺然とした皺だらけの笑みを向ける。もはや己の真名を知る最後の一人が倒れればそれまでの人生。心の内では、このヨズアと、死なば諸共だと独りごちながら。)……今日は申し訳ないが、生憎手持ちがないのじゃ。……また、会えるかの?(その言葉には、ヨズアの行く先を案じた暗い響きが少なからず孕んでいた。護らなければ、ヨズアの民を、文化を、この、小さき国を。)


続く?