この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

共犯者

(アッシュ&レフィーネ)

しめ鯖/レフィーネ ◆> (防衛の成功を期して、レフィーネはミトラにいた。汚れてしまった制服を脱ぎ、ミトラで間に合わせに買った黒いワンピースに身を包んで。領土が増えた訳ではないので派手な凱旋はなく、王都に戻るのも急がなくていい。何よりこたびの戦はウェンディア聖騎士団もかなり負傷をした為、精神的にもありがたかった。……それに、あまりすぐに王都へは帰りたくはない。この世への未練を断ち切ってから戦いへ赴いた事が強い喪失感を産み出し、己を奮い立たせて戦った揺り返しにより、心がバランスを取ろうとしている今。思い出がいっぱいのあそこへ帰るのは少しだけつらい。戦とはそれほどまでに人の心を振り回すのだ。戦なのだから、当たり前の事だった。まだ諸手を挙げて勝利を喜べずに恐怖の余韻を噛み締めて粛々としている、がらんとした街を背に、海を見つめながら、そんな安息になりそこなった休息を噛み締めていた。)……漣がー…………砂をさらってー………やどかりがー……あるいてるー……   (3/30 20:48:52)
しめ鯖/レフィーネ ◆> (見たままの景色をハミングしながら口に出す。気まぐれにすらなりやしない口遊みにうんざりしながら髪をいじる。この髪を切った軍服が人間から死体に変わる瞬間を思い出しながら。……いままでも人を殺す事に抵抗がなかった訳ではない。だけど戦時中でなくとも自分に直接的な関係の無い人間の訃報なんて、三日も終わってしまえば忙しい日々に埋もれて忘れる事ではないか。……そういう意味ではレフィーネは優秀な騎士であったはずだった。何が自分を変えたのか、考えたくもなかった。)……わーーーーー!!!(ふと思い立って、海に向かって叫んでみた。)   (3/30 20:49:01)


アッシュ > 「どこ⋯⋯どこだ⋯⋯っ」((沸き立つまでは行かずとも。防衛に成功した王国領土、ミトラの街を、ぼろぼろのローブ⋯を乱雑に丸め抱えた男が、走る。余程体力を使ったのだろう、そう暑く無いのに、額には汗が滲み出ており。どちらにしろ綺麗な服装では無いが、抱えるローブよりはまだマシ、という風貌の彼、アッシュは走っては立ち止まり、辺りを見渡して。再び走り、を繰り返していた。何かを探して。)「⋯⋯王都に帰ったのかな、それとも、見つかってないだけか。⋯⋯⋯っ」((──有り得るかもしれない最悪を幻視して、強く頭を振り。振り払おうとしても、今度は脳裏に浮かぶのは別れ際の悲しげな表情。⋯嫌だ、そんなの、有り得ない。再び走り出し、目立つ青色の制服を探しながら、街を駆け抜けていく。フードも何もしていないから、しっかりと顔を合わせるともしかしたら、バレてしまうかもしれなくて。違う、違う、と判断をするが早いかその場から離れ、を何度も何度もループして。⋯⋯諦め掛けた、そんな時だった。
アッシュ > 街を抜けて、小休止。海を見たくて、かは分からないけれどやってきた砂浜に続く道から見えたのは、一面の白をぽつん、と彩る、孤独な黒と翡翠色。ひゅう、と鳴った音は、吹き抜ける潮風の音か、それともアッシュの喉が鳴った音か。吸い寄せられる視線のままに、ゆっくりと近づいて。)「⋯⋯レ⋯、っ」((アイツらしくはないような、シックな黒いワンピース。背中程まであった綺麗な髪は、今では肩にすら届かない。彼の知る少女とはどこか違う後ろ姿に戸惑ってか、言いかけていたその名前と一緒に、ゆっくりとだが足跡を作るのを止めて。何も変わらず一定のリズムを刻む波の音と、潮風の音をバックグラウンドに、はやる気持ちを抑えようと。していたけれど。)「⋯⋯っ!!」((静かな空気を打ち破ったのは、〝らしくない〟大声で。けれど、その声色は確かに。穏やかだった心に大きな波が押し寄せて、後ろめたさや冷静さも何もかも、押し流してしまったのだった。)
アッシュ > 「────⋯⋯レフィーネぇぇえっっ!!!!」((どさり、砂浜に落ちた茶色いローブを合図に、沖の方まで響いてしまいそうな大声で君の名前を呼んだ。呼び止め無かったら、このまま消えてしまいそうな気がした。表情は僅かに焦燥と疲れを孕んでいるだろう。元々体力を相当使っていたからか、肩を僅かに上下させて、君が振り向くのを待っ⋯⋯ていたかったようだが、それとは裏腹にアッシュの足は、君へと一歩。ふらり、とそれでいて重く砂に沈んでいた。


レフィーネ ◆ > (波の音と静けさに身を任せて呆けていたレフィーネは、突然響き渡った声を聞いて現実の事とは思えなかった。『あ―――とうとう、頭がおかしくなっちゃったのかな……。』悲しむでもなく、困惑するでもなく。そうなら楽かもしれないという安堵に縋りたくて、声のほうへ振り向いた。)…シンシア………(気の抜けたような声でその泡沫を呼ぶ。幻は何故かいつものローブを羽織っていなくて。わたしもこんなに変わったのだから、そりゃあ、幻のほうだって変わるのかしら。考えすぎた疲れからか、はっきりしない頭であなたを見つめる。…が、こちらへよろよろと歩みよろうとする、そのあまりにも”あなたらしい”動きにはっとなり、ようやく幻ではないと察した。)……っえ…………アッ……や、………な、なん、……(一歩、二歩…と下がり、三歩四歩五歩は、もっと早く。確実にあなたから遠ざかりながら、レフィーネは首を振った。幻ならば会えて嬉しかったかもしれない。だけど、もう関わるなと言ったのはあなたなのに。いつにも増して情緒不安定になっているレフィーネは、感情の波が押し寄せてくるのを止めようともせず、ふつふつとした怒りに身を任せつつあった。) 
レフィーネ ◆ > ……っ…あっ…あ、あっ…(『あなたは勝手な人ですね。』そう言いたいのに、声がでなくて。常に冷静でなければいけないはずの魔術師でありながら激しく動揺をしたレフィーネは、吃らずに喋ろうとすればするほど――騎士団に入る前の自分に、どんどん戻ってゆく。息を、息を吸わなければ。)……っ、ま……、……っま、た……っ、…(『またそうやって泣くんですか?』……あなたの顔を見もせずに。どうせ泣くにきまっている、そう決めつけて。きゅぅ、と喉が締め付けられ、息が出ない。こみあげる空嘔を飲み込みながらまた、必死に呼吸をしようと、息を吸った。)……はっ、…はぁっ…は…ぁっ…!!(息を吸わなきゃ。吸わなきゃ。空嘔が止まらなくて、指の先が震える。肋骨にぎりぎりとした痛みを覚えて、胸を抑える。もはや立っていられないほどの動機に、崩れ落ちるようにして砂にまみれた。)
レフィーネ ◆ > ……っ…、く、……ふっ……っ…!!!(ぽろぽろとこぼれる涙は感情的なものではなく、吐き気と伴う生理的なもの特有の大粒なものだった。泡沫のように霞むあなたの顔を見上げて、『たすけて』の色を伴う視線を送った。) 


アッシュ > 「⋯⋯レフィー、ネ⋯。」((かつて、こっそりと告白したその名を耳にすれば、どくん、と胸が脈を打つ。それは、暫くの間失っていた魔力が戻った事によるものか、はたまた⋯別の何かか。どちらにせよ、アッシュは君の声と姿に酷く安堵して、理解が追い付かない高鳴りを感じていた。よろこびの波に流されて、君に一歩、一歩と近づいて行く。呼応するように、離れていく君。縮まらない距離が、恐怖となって襲い来る。ここで見失ったら、もう次は。⋯⋯と、思考を巡らせているように見えて、アッシュはただ、レフィーネの存在を確かめたかった、それだけなのかもしれない。)「⋯⋯レフィーネ。」((『───無事でよかった。』心の中で呟けど、その表情に笑みは宿らない。辛そうな君の表情を見て、それどころじゃなくて。⋯まだ、この時は本当に〝それどころじゃない〟事には気付けておらず、また、一歩、一歩、と距離を詰めていくだけ。)
アッシュ > 「⋯⋯、レフィーネ⋯⋯?⋯⋯⋯───レ、レフィーネ⋯ッ!?っおい!しっかりしろ!!!」((苦しそうな、辛そうな表情の意味がどこかズレてきている気がして、近付く足のペースを落とし、心配そうな、不思議そうな瞳を君に向けるだろう。段々と激しくなる呼吸の音。⋯⋯気付いた、いや、思い出した時にはもう遅い。それは、まだ聖騎士団にレフィーネが来たばかりの事だったから。一度見た事がある光景が目の前で繰り返され、どさり、とレフィーネが砂に伏せてから。意味も無く繰り返していた名前に初めて、今までにない程の焦りの感情を乗せ。急いで寄り添いしゃがみ込むと、君の背中に手を回し、仰向けに抱く様にして見下ろした。)「おい、おい!!⋯⋯ほら、俺に合わせて呼吸、しろ!レフィーネ⋯⋯!」((君の予想とは裏腹に、涙は浮かんでいない。あれだけ君の前で弱さと涙を見せた男だが、今はそんな余裕すらも無いのだろうか。肩を抱き、自分の口を君の耳元に近付けて、ゆっくりと、静かに呼吸の音を聞かせるだろう。
アッシュ > ⋯⋯⋯けれど、パニックに陥る過呼吸の人間が、そう簡単に落ち着く筈もなく。それを知らないアッシュは、効果が現れない事に酷く狼狽して⋯、耳元に近づけていた顔を離し、今度こそ表情をぐしゃぐしゃに歪ませてしまう。)「⋯⋯うっ⋯!!!⋯⋯⋯ごめん、⋯⋯っ」((悩んでいられない程に、追い込まれていたのか、一言謝ってそっと君を抱き寄せる。そのまま唇を塞いで、軽く息を吹き込んだ。⋯実際にしたことは無いし、合っているのかは分からないけれど、アッシュが聞いたことのある対処はこれしか無くて。『落ち着いてくれ⋯⋯』と静かに祈りながら、近過ぎる君の顔から逃げて、黒い瞳を閉じてしまわない様に、君の容態をしっかり見てられるように必死で開け続けた。


レフィーネ ◆ > (迷いなくこちらへ駆け寄るあなたもまるで、アッシュとして出会うずっと前、まだ百騎長だった頃に戻ったようだった。ずっとずっと譫言をくり返すだけのようだった言葉に魔力が宿り、レフィーネを呼んでいる。困っている人が居たら全身全霊を懸けて助けにいくような素晴らしい上司だったあなたの、助けたいという気持ちがじんわりと伝わってきて、レフィーネはあまりにもめまぐるしく、多すぎる感情の種類についていけそうもない。『この私が人の感情を読めるなんて。』変わったのは、どちらなのか。耳元で必死に叫ぶあなたに、甘えた怒りと静かな悲しみと英雄へ向ける尊敬と自分でもわからない親愛と慈愛に満ちた祝福と……何もかもを覚える。苦しくて、切なくて、とても落ち着けそうにない。そしてまた、顔を歪める。『アッシュさん――あなたも、死んではいなかったのですね。』虚しさや寂しさなど覚える暇もないくらいの激情に身を委ねて、迫りくる死の恐怖を受け入れそうになる。太陽神がお与えになった、これは最期の走馬灯みたいなもの。世界はこんなにもめまぐるしかったと教えてくださっているのだと。) 
レフィーネ ◆ > ……っ……!?(謝りながらレフィーネを抱き寄せて、二酸化炭素を共有するあなたに驚く。その瞬間に自分が今何を考えていたのか悟り、頭だけは正気に戻って青ざめる。……死にたくない、生きたい、生きていたい。唇を離してこちらを見据えるあなたの服の胸元をひっつかみ、もう一度顔を寄せて唇を重ねた。静かに、けれども貪るような呼吸はちょうど吸血鬼が生きるために血を欲するのと似たものかもしれない。唇を離して、すがりつくようにしてまた重ねる。)……はぁ…っ、はぁ……………はぁ………。(ようやく落ち着きを取り戻初めたレフィーネはあなたの胸の中に、どのくらいの時間だろうか。顔を埋めて呼吸した。……えっ。(そしてようやく、あまりにも多すぎた情報量と怒涛の展開を理解し、今更目を丸くしてあなたを見た。)…えっ、えっ…?…えっ…?……あ、ああああの……わ、わっ、わたっ、わたし!!は、初めてだったんですけど!!??(声をうわずらせてそう叫んだ。) 
レフィーネ ◆ > ……えっ。(そしてようやく、あまりにも多すぎた情報量と怒涛の展開を理解し、今更目を丸くしてあなたを見た。)…えっ、えっ…?…えっ…?……あ、ああああの……わ、わっ、わたっ、わたし!!は、初めてだったんですけど!!??(声をうわずらせて、非難というよりは混乱と羞恥を含んだ声色でそう叫んだ。) ……は?……ななななんてこと、なさるんです…?……は?……はあッ…!?…せ、せ、責任っ、責任取って下さい!!責任っ!!(耳まで顔を真っ赤にして、その意味も解らず繰り返した。)  


アッシュ > 塞がれた、触れ合った唇。漠然とした〝失う事への恐怖〟ではなくて、ただこの人だけは失いたくないという感情。ずっと気付かないふりをしていた気持ち、必死で隠していた激情は、目の前でソレが失われる可能性と恐怖をチラつかされて漸く表舞台へと流れ出てきた。苦しそうな君の表情を見ていたくないだけか、それとも他の理由か、うっすらと閉じていきそうになる瞳。呼吸を、自分の生きている証を必死で送り込んで、息継ぎか一度、唇を離した。だが、『ごめん』の一言を送る前に再び唇は塞がれて。)「⋯⋯っは、⋯ん⋯⋯!?⋯」((胸元を掴まれて、僅かに体に重みが掛かる。そのまま、今度はお互いに引き寄せられるように重なって。⋯⋯『生きていて欲しい。』胸の内にただ一つ、彼を突き動かしていた感情がどろどろと溶けて、もう何を成分としているのかも分からない、ごちゃ混ぜの溶液の中を揺蕩った。何度も繰り返して、やっと唇が離れても、暫くはそこから抜け出せそうになく。胸の内で呼吸を落ち着かせ始めた君の背中に回す腕の力を少しずつ、緩めていたけど。)
アッシュ > 「⋯⋯っす、⋯⋯⋯すま⋯⋯!⋯⋯⋯⋯っ」((安心しているのに昂る、形容しがたい感情を落ち着かせる時間を、どうやら神は与えてくれなかったみたいで。自分より早く我に返ったレフィーネが驚きの声を上げるが早いか、焦りのままに謝罪の言葉を繰り返そうとするアッシュだったが、『ただ、助けたくて』なんて言い訳でどうにかなるものでは無い。流石のアッシュも、自分が奪ってしまったものの価値を知らない訳ではなかった。謝ろうとして絞り出した声すらも、上擦った声で叫ぶレフィーネに打ち消されてしまい。腕中の君の胸元あたりに視線を落として黙りこくってしまう。『気にしないで』なんて言えたら、どれだけ楽か。恐らく続けられるであろう、少し責める(とアッシュは感じていた)言葉に身を固めていたのだが。)「⋯⋯え。⋯⋯は、せ、責任⋯⋯?何言って⋯⋯!?」
アッシュ > ⋯予想外だった。一瞬何を言っているのか分からず言葉を詰まらせて。『良かった』と目尻に浮かび始めた涙も止まり、僅かに潤んだ目を白黒、と慌しく変えてから。⋯理解する時間を少しだけ貰えれば、意味が分からない程アッシュは無知ではない。言葉の通りに受け取ったのだろう、視線をあちらこちらへ動かして、彼にしては珍しく少し早口のままに言葉を紡いだ。)「せっ、責任は⋯お、俺なんかじゃお前には⋯。⋯⋯その、ごめん、俺も初めてだったから─────」((⋯⋯気付いた時には、遅すぎた。どうしたら許して貰えるだろうか、そんな気持ちから〝弁明のつもり〟で、ついつい口走ってしまった言葉にはっ、と口を閉じる。君を抱き抱えて居なければ口を抑えていた所だろう。光を感じない瞳は相変わらずだが、今は凄く人間らしい。まるで鏡のように、揺らぐ感情をありのまま瞳に映しながら、ぼそぼそと力無く独りごちた。)「⋯⋯な、何言ってるん、だろうな。俺とお前じゃ価値が違うよな、俺は貧乏で地味で能無しだけど、お前はその、綺麗、だし、まだ若いし⋯⋯⋯⋯。」  


レフィーネ ◆ > (レフィーネより一拍遅れていつもの調子を取り戻しながらたじろぐあなたに、糾弾の声を緩める。何か返事があるのなら…と。しかし、あなたから発せられた返答は言い訳にもならない、ごまかすようなあいまいな言葉だけ。その卑下するような言葉は目の前のレフィーネなどまるで見てはおらず、ずっと自分自身に向けられていた気持ちをようやく発露したに過ぎないのだろう。ただその瞳だけは水を得た魚のようにお喋りで、ゆらゆらと揺れていた。レフィーネ一人で空回った事で余計に顔を赤らめて何かを言おうとすると、はっとなったあなたから再び、今度は力なく言葉を紡がれるのを聞いた。それは誠実であろうという意思に違いないし、自分の求めていた返答ではなくともレフィーネの心をじんわりと温めた。) 
レフィーネ ◆ > (何より、こんな風にきれいと言われたのは初めての事で。たった一回あなたが、この手が穢れていないという欺瞞を口にした時だけ。とてもじゃないけれど、もう一度この人を怒ろうという気など起こらなかった。かつてそんな風に言われるのはどんな気持ちだろうかと思い巡らせて見た時とは随分違った感じだ。心臓がばくばくと高鳴るわけでもなければ、自分が自分でいられなくなるような感覚もない。ただ目の前のたどたどしく喋るあなたを見ていると、乾いた心臓に水が染み渡っていくようで、昂りと安息が同時に心を締め付けた。心臓ごときゅうっと、抱きしめられているかのような気持ち。レフィーネは砂の上に座り込んで居住まいを正し、今度はきちんと向き合った。)
レフィーネ ◆ > ……あの……わ、わたし、この戦争で……この手で、人を殺して……。は、初めての事ではなかったですけど。…辛かった、です。ら、ら、楽になれたらとすら、おお思いました。……わたしを変えたのは、たぶん、……あなたです。ひ、ひとが死体に変わる直前の瞳がこびりついて、は、は、はなれない。きっと、いい一生苦しみます。……あ、あっ、あなたもそうでしょう。…あの……。(レフィーネは一瞬下を向くと、もう一度あなたの瞳を見据えて、まるで脈絡の無さそな質問をする。)こ、こ、この世で一番、しっ、親密な関係って、なんだか、ご存知ですか?


アッシュ > 「⋯⋯す、まん⋯。」((⋯一度吐き出した気持ちを飲み込む術は持ち合わせていないし、それはきっと失礼だ。せめて本当の事は言ったのだから、謝るだけにした。今更何を求めているのか、なんて自分に問い詰めたい事は山ほどあったけれど、今は考えないふり。ただ瞳を緩ませ、溶かし、感情の行き場所を探して彷徨わせた。それからも口にはついぞ出すことは無かったけれど、腕に抱いていた大切が自分の元を離れていくのに、「あ⋯⋯」と切なそうな、意味の無い声を漏らした。座り直すレフィーネの背中に回していた腕を、名残惜しそうに解くと、瞳と同じように行き場所を失った両腕を力なく膝の上に落とし。ぽつぽつと話し始めたレフィーネに一拍遅れて、自分も視線を合わせた。)
アッシュ > 「⋯⋯⋯⋯⋯⋯っ、⋯⋯⋯⋯⋯それは───。」((黙って君の言葉を聞いていたアッシュは、同じように膝の上に置いた拳を強く握り締め、ズボンに強い皺を作り。己を縛る過去の罪がフラッシュバックして、それと似た苦しみをレフィーネが感じていると思うと、もっともっと胸が苦しくなった。そして『ごめん』なんてまた、形だけの謝罪を口にしようとしたアッシュを酷く困らせたのは。付け足された⋯⋯いや、こっちか本題か。瞳がぴったりと合った状態で焦点を動かし、口を噤んだ。)「⋯⋯、夫婦⋯か、親友、⋯⋯⋯⋯いや、血の繋がった、家族、かもしれない⋯。」((煮え切らない態度でぼそり、ぼそり、と紡いでいく。いつしか膝の上に置かれていた拳は砂浜に落ちており。)「⋯すまん、分からない⋯。⋯⋯俺には、家族しか居なかったし⋯、今は、それも居ないから⋯⋯。」((僅かに拳に力を込めていた。⋯⋯もしかしたら、この砂のように形の無い、何かを、必死で掴もうとしていたのかもしれない。


レフィーネ ◆ > (あなたの返答を聴き、好奇心を満たされたレフィーネは以前のような人懐っこく少女らしい微笑みで、満足そうに頷いた。何かの物語で読んだ話で、自分が考えたわけではないものだったけれど。今はその言葉があまりに都合良く、自分たちのためにあると感じた。あなたに額をくっつけて、吃らないように喉を震わせず、口の中だけで囁くように呟いた。)………それはね……共犯者です。(何かを掴もうと必死に握りしめたあなたの拳にそっと手を重ねて、開こうと試みる。…きっと今までも試みたのだ、だけどその拳は、あまりに頑固で誠実だったから。)……あ…あなたの罪は、わたしと同じ。わ、わたしの罪も、あっ、あなたのもの、です。……これから、わ、わたしたちは一緒に、償っていくのです。……だけど、わっ、わたし、あっあなたと、もっと親密になりたくて、これからも、罪をおお、犯すかも。(最後の一言だけは、償うと言いながら聖騎士団を辞める事はできない自分への欺瞞だった。だけどあなたの事をもっと知りたいという気持ちに嘘は無くて。レフィーネは掌に力を込める。)
レフィーネ ◆ > ………そしたら、そうしたら……いっ、いっしょに、行きましょう。(『聖騎士なんて皆、太陽の御国には行けない。』その言葉を思い出しながら呼吸をしてあなたの瞳を見据える。)……奈落へ。(キスがどうとか、初めてだったとか、もうどうでもいい。月の夜に狼達に見守られながら自分の心を占った時から決まっていたことなのだ。あの時咲いていた”班入りの”つゆくさの本当の花言葉は、『密かな恋』。見ないふりをするのは、もはや難しかった。)……わ、わたしは、あああなたが、罪から目を逸らさない為の、灯台になります。……だから、あっ、あなたは……、あっ、あなたにできることはっ、……これから、長い時間をかけて、わ、わ、わたしを、好きになってください。そっ、そして、愛してください。世間にうしろ指、さされながら、のっ、罵られながら。 
レフィーネ ◆ > (あまりにも理不尽な要求。だけどそれがレフィーネの、精一杯の”ロジック”だった。)……わ、わっ、わたしが、少女とよばれなくなる頃には、だ、だれにも、何もいい言えません。どうかそばで、み、見ていて下さい。……それが友情でも、こっ、恋でも、あああ、愛でも、ただ、月神の……シンシアのお導きならば。仰せの、ままに。


アッシュ > さっきまで苦しそうな表情をしていた君が、昔のような笑みを浮かべたことに、アッシュは今度こそ、理解が追い付かない。いつかレフィーネが悩んでいた事に、初めて彼は苦しんだ。笑顔の意味が分からなくて、何かを言いたそうに口を動かした。⋯⋯そんな彼に、近づいてくれたのは君の方で。感情を司る部分をそっと寄せて、触れ合う。望むモノをついぞ掴めなかった拳にも、優しく温かい手が重なる。)「⋯⋯!!」((口から、額から、伝わって染み込んだその言葉はきつく閉じられた拳と心を解いていく。力を込めていた拳が緩めば、その隙間を縫う様に細い指が絡み、酷く甘い泥のような言葉と感情が、取り繕っていたぼろぼろの心の傷痕を埋めていく。レフィーネという存在が、アッシュが欲しい部分を狡く執拗に埋め込んでいった。今や、すぐ目の前にある翡翠色から目を背ける事すら出来なくて、浅ましく漆黒に翡翠を映す。黒一色に染められていた瞳に、唯一他の色が宿って、混ざって、溶け合った。
アッシュ > 少し前の自分であれば⋯⋯そう、それこそ再開して間もない頃の自分なら、きっとこの甘い誘いにも抵抗することが出来たはず。けれど、自分の中に張り巡らされたレフィーネという根は、抗おうとするには既に深くなりすぎた。複雑になりすぎた。いつしかアッシュは自らの意思で君の手に指を絡めようとしており、自らの真名を繰り返される度に、どうしようもなく昂るまま、噤んでいた口を開いた。)「⋯⋯お前、が、俺をずっと⋯⋯導いて、くれるなら⋯⋯」((震える声で呟いて、一度そこで言葉を止める。ごくり、と喉を鳴らして、深く深く入り込むように君を見つめたら、絡めた指の力を少し強めた、離さないように。)「⋯⋯なら、俺、を見捨てないでくれ、ずっと、俺が気付ける場所に、居てくれ、お願い⋯だ、もう────」((瞳を閉じれば、僅かに目尻に雫が見えて。合わせていた額をぐらり、とずらし...君の肩に頭を預けてしまう。甘えて、初めてレフィーネという支えを正直に求めたのだった。) 
アッシュ > 「⋯⋯俺を、ささえてくれ⋯一人は、嫌なんだ⋯⋯。レフィーネが、味方で近くに居てくれるなら、もう、他は⋯⋯」((君に気を使う事すら無く体重を乗せた。重たいかもしれないけど⋯、偽りない欲の表れだった。


レフィーネ ◆ > (いつのまにか絡みつくようにぎゅっと握られた指と指とを掌握し、あなたの震える声を耳にする。こんな時にさえかっこつけた事を言う訳でもなく、ただ心の柔らかい部分を曝け出して、見捨てないでと甘えるようにして身体を預けてきたあなたの頭を空いているほうの手で優しく抱きしめる。耳のほうから黒い髪に指をさしこみ、かきあげるようにして首へ滑らせ、撫でる。『運命の相手は強くてかっこいい騎士様だと思ってたんだけどなぁ…。』そう頭の中で呟くも、もうそんな架空の誰かなんて眼中にはなくて。)はい……。奈落まで、い、一緒です。そういう、と、と、取引です。………あ、あの。……わ、わ、…わたしの名前…――― 
レフィーネ ◆ > (レフィーネも頭をもたげ、あなたの耳に唇を寄せて気恥ずかしそうに囁いた。)……へ、変な、名前ですよね。犬や猫に、つつっ、つけるみたいな……恥ずかしい。古代のエッ、エルフの名前でとくに意味は、無いらしいんですけど……ちいさくてかわいいとか、な、なんかそんな意味らしいです。……えへ…。…あああの、結局わたし、なんて呼べばいいんでしょう……。ずっと……こ、こ、困ってて。(握ったほうの手を自分の胸に引き寄せて、黙ってあなたに触らせる。鼓動が聞こえるように、勇気を出して尋ねた事がわかるように。もしかしたらそれ以上も期待して。)


アッシュ > ⋯⋯温かい。心地の良いぬるま湯に浸かっているような気分だった。自分の体はこんなにも熱いのに、それでも触れるレフィーネの体は冷えて感じない。片手が離されようとした時、どこか寂しそうに、少しでも長く触れていたい、と動かしていた指。空いた片方の腕は、そっと君の背中に回りどこか遠慮がちに、抱いた。〝取引〟なんて商売的な表現をした君の言葉に、少しだけ悲しい気持ちを抱きつつも、そんな感情全部どうでも良くなるような一言に、アッシュは体を震わせた。告げられた〝真〟に酷く昂って、よろこんで、それから───自分を責めた。)「いい、や⋯⋯凄く、素敵な名前だと思う。⋯あと、ごめんな、言ってなくて。⋯⋯俺の、名前は────」((手が引っ張られて、⋯⋯〝心〟が〝震〟として告げられた。勇気を出して、君が言ってくれた事が。それに対して、自分はなんと狡くて、自分勝手だったろうか。何ども君が知らずに口にしていた女神の名を、顔を少し上げて、耳元で君に告げる。
アッシュ > ────そしてそのまま、体重を強く君に掛けて、仰向けになるように押し倒した。感情と一緒に押し付けた。君の頭の横に、握られてない方の掌をつき、見下ろす瞳はどうしようもなく濡れていた。彼なりの勇気の発現だった。暫く君を見つめてから、ゆっくりと君の頬に手を添えて、想いと唇を寄せる。)「⋯⋯俺と、一緒になってくれ⋯⋯」((意味のある言葉は、それで最後だっただろうか。二回目の口付けは先程よりも長く熱く。⋯何度も寄せては返してを繰り返した二人は漸く、重なる。⋯⋯⋯一緒に、なった。)〆