この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

野営

(火津彌&刀花)

火津彌 ◆ > (とある山中。敵国への攻城を控えて、帝國軍の魔術師たちは野営の幕を張っていた。戦いの前というのは常に不思議なもので、嵐の前のような静かな高揚感を皆一様に感じている気配があり、どうにも饒舌になったり、浮かれたり、沈んだりといったさまざまな感情が一体感を生み出していた。今の火津彌のように焚き火の番でもしていればなおさらのこと、これからどうなるかわからないと言う刹那的な感情に支配され、脳内麻薬がかけずるのを感じる。今夜は、眠れそうにない。)…さてさて、どうなる事やら。(そう、ひとりごちながら火を眺める。できればこうして一人で火を見ていたいという気持ちと、誰かが話し相手になってくれないかという気持ちの両方が矛盾しながらも存在し、そういえば、悪戯好きな上官がひとり居たな、彼女、いや、彼はもう寝ただろうか…と、思いを馳せつつ目を閉じた。) 


刀花 > (刀花は眠りについていたが、野営を行っているという点から普段よりも浅い眠りだった。故に、オオカミの遠吠えにより目が覚めてしまったのだ。欠伸をかみ殺した後、いまだにぼやけている目をこすった。ひんやりとした空気に体がさらされ、華奢とは言えないが、がっしりしているとも言えない細めの体を震わす。火に当たろうと思い、その場を立つとパチパチと火が燃える音、暗闇の中で浮かぶ光を目指して歩きだした。ぱき、ぱきと葉や小枝を踏むことで起きてしまっている音を聞きながら歩いていると、火の番をしている火津彌を見つけた。)こんばんは(ゆったりとほほ笑みながら彼へ挨拶を。した。)


火津彌 ◆ > (目を瞑っていると、狼の遠吠えがどこからか聞こえた。…さすがにこんなところへは来ないだろうがと思いながらも気を引き締める。静寂、火の音、遠吠え。その全てが戦いの開始を告げる法螺貝のように、火津彌の心に厳かな緊張を落としていく。火の燃えるパチパチという音に混じり、ぱき、ぱきりと小枝の割れる音。ふっと振り向くとそこには、ちょうど先ほど思い描いていた人物が、火津彌の心の声に応えるかのように佇んでいた。)……あ…これは、刀花様。こんばんは。…眠れないのですか?…お恥ずかしながら私も。(こちらに微笑みかけるあなたの姿は、炎にぼう、と照らされどこかこの世ならざる者のように思えた。暗闇に浮き上がる白い肌、品のいい所作、男とも女とも思えぬ神仙めいた雰囲気…その、全てが。高揚感がそうさせたのか柄にもあなたに見惚れてしまい、はっと気づいて立ち上がる。上官を立たせておくわけにはいかない。) 


火津彌 ◆ > …あぁ気が利きませんで、申し訳ありませんな…。よろしければどうぞ、座らはりますか?(立ち上がり、それまで自分が腰掛けていた切り株を空けようとすると、俄かに突風が吹き突然火がかき消えた。)あ……。お、お待ち下さい。"尊き華の宮処に御坐す妖狐、常音。小さき不知火の燈しを——……"(火を灯すのならば自分の魔術適正は御誂え向きだ。火津彌は静かにその呪文を紡ぎ出した。) 


刀花 > 狼の遠吠えで、目が覚めてしまったんです(少し眉を下げて、困ったとでもいうように照れたように笑むと、軽くあたりを見渡した。すわ得る場所がないか探すのだ。正直上官にその席を譲らないのはあれだが、今は夜。少し、甘くなっているのかもしれない。そんなことを考えた時、火津彌は立ち上がって切株を進めてきた。パチリと瞬きを一つした後笑みを漏らした。)ありがとうございます(礼を言って座ろうとしたとき突風が吹いた。肌が冷たい風にさらさせぷつぷつと鳥肌が立つ。寒いのはどうも馴れない。嫌いではないのだが。ふとこの空間が闇に閉ざされたことに気づいて火があったはずの場所に視線を向けると、火が消えていた。火津彌が横で呪文を紡ぐ。再び火がついた。パチっ、と火の子が飛ぶ様子を眺めていると風邪を斬る音。少し前に聞いたばかりの葉や小枝を踏みつける音が聞こえたかと思うと狼が飛び出してきた。それに対して手をかざす。慌てずに、冷静に。呪文を呟く。)
刀花 > ”我は願ふ。何よりも鋭利に、とくあれと。我は願ふ。獣を滅し、極楽へ導きていけと...災ひよ、風災よ、終へと導け。渦を巻く風よ。我”助けたまへ...”(呪文を言い終えれば、風が渦を巻いて空へと昇っていった。狼と火との距離はまぁまぁあったため、巻き込まれずに済んでよかったがもしかしたら消してしまうことになったかもしれない。と思いつつ手を膝の上へと戻した。その後、火津彌の方へ視線を向けると首をかしげてたずねる。)大丈夫でしたか?


火津彌 ◆ > (火津彌の使役する管状の狐が一瞬その姿を現し、蛇のようにするりと薪の中へ入り込み、小さな種火を残し消えた。…少しの間パチパチとそれは燻り、次の瞬間にぼう、と炎に変わる。ほっとしたのもつかの間、炎に浮かび上がる見慣れぬ影。——先ほどの遠吠えの主だろうか、狼がこちらを見据えていた。思わず上官を守ろうとあなたの前へ出る。いや、上官だからではないのかもしれない、自分よりも小さく、髪の長い、少女のような姿を前に、そうしないならば尊華の男ではないだろう。しかし背後のあなたは少しも動揺する素振りを見せず、狼が現れてからの詠唱、発動、狼が風に脅え遠ざかるまでの全ては火津彌の出る幕もないほど一瞬のうちに起きた。)……は、ありがとうございます。流石は……はは。あの狼の声だったのでしょうな、あなた様が聞かはったのは。……もしかすると仲間を引き連れて報復に来るやもしれませんが…。まぁ、あまりに面倒なら今日は焚き火を消して、眠るというのも手ですし…。
火津彌 ◆ > (なんとなく歯切れ悪くそう零した。狼如き、どちらが対処しても同じ事なのだが。身を呈した割には結局は助けられる形になってしまい、なんとはなしに歯噛みする思いを抱えて。)……夜は、良いですな。(苦し紛れか沈黙に困ってか、そう呟いた。) 


刀花 > (ゆっくりと目を閉じて開ける。ということを繰り返していたら火津彌に褒められて、少し驚いた後うれしそうに笑って火津彌のことを褒め返した。)あなたも、素晴らしかったですよ。さすがですね(そう言いおえると火津彌から焚き火へと視線を移す。その後に続いた言葉を聞いて、少し思考に耽ったのち考えを口にする。)そしたら、殲滅した方がよさそうですかね...?(軽く首をかしげて特に火津彌に尋ねているわけではないが疑問符がついた。ぽつりと火津彌が言葉をこぼしたのを聞いてふっと口角を上げるとそうですね。と同意した。軽く足を揺らせばひやりとした冷気が足を覆い、纏わりつくように残ってくる。それから、こつんと切株に靴がぶつかったのとほぼ同時といってもいい時に又突風が吹きつけた。砂が舞い、軽く目を細めると、再び辺りは闇に包まれた。)


火津彌 ◆ > (思いがけずあなたからの褒めの言葉を賜り、どうにも素直に受け取れずに固い表情のまま応えた。)……いえ、私は何も。…殲滅、ですか?(柔らかそうな桜色の唇から紡がれた物騒な言葉に目を瞬かせた。少女のように見えても将官の位は伊達ではないようだ。それに、いささか不完全燃焼であった火津彌にとってその言葉は降ってわいた好機のようにも思えた。)肩慣らしというわけですか。……援護いたします。(風の強い日だ、再び掻き消えた焚き火に開戦の狼煙を灯すあなたを横目に見ながら、火津彌はにやりと口角をあげて軍服の第一ボタンを締めた。)山ごと焼いてしまいましょうかね。(そんな冗談に、己を奮い立たせながら。) 


刀花 > (固い表情の火津彌をみてすこし不思議そうな顔をしたあとおうむ返しのように問いかけてきた火津彌に対してにぃっと口の端を釣り上げ、不敵に笑った。察したようにつぶやく。いや、もともと好機だと思っていたのだろうか。火津彌が冗談を呟いだのを見て、クスクスと笑みを漏らした後優しい印象を抱かせるたれ目気味の目を細める。グラデーションの瞳が赤い焔を映し出す。どこかで、オオカミの遠吠えが聞こえた。)


火津彌 ◆ > (いくつかの遠吠えの後、またしても現れた狼。どこか楽しそうなあなたに背中を預け、手袋をきゅ、とはめ直した。)わざわざあちらさんから出向いて下さるとは、歓迎されているようで光栄ですなぁ。窮鼠猫を噛むとは申しますが、狐は狼を如何に。(そのつり目を細めて、呪文の詠唱を始める。)かけまくも畏き古なる九尾狐よ。現人の幻となりて我が前に姿を示し給へ。玉藻前、我が火津彌の名と真名との契りのもとに。(空中に九つの狐火が浮かび上がり、それはまず尾となり、九尾の狐の姿を成した。獣らしからぬ妖しい笑みを携え、〝玉藻の前〟の姿が降臨する。)……援護致します!


刀花 > (好戦的な笑みを浮かべつつ、火津彌へ背を預ける。再び現れた狼に手をかざして呪文を紡ぎ出す。その声は固く、どこか緊張しているようでもある。...なにせ、操る魔法は災害。少しでも間違えれば大惨事に陥ってしまうのだから。)”我は願ふ。何よりも鋭利に、とくあれと。我は願ふ。穢土揺るがし、浄土へ導きていけと...災ひよ、震災よ、幸へと導け。地を這う揺れよ。我を助けたまへ”(呪文を紡ぎ終えた瞬間地が揺れた。そのオオカミがいた場所を震央として、狭い範囲で。ぴきぴきっと亀裂が入ったのを見て、目を見開く。冷静に、慌てずに。そう言い聞かせながら再び口を開いた。)"願ひたてまつる!いかでか、その力抑へ込みたまへ!"(そう叫べば亀裂が止まり、その場にいた狼は地と地の間の隙間に足を捕らわれて抜け出そうともがいているところだった。ふっと息を吐くと鯉口を斬り、そのまま狼の首を斬る。鮮血が舞った。刀を振って鮮血を飛ばすと鞘へ納めた。)


火津彌 ◆ > (あなたの呪文のさわりを耳にして身構える。これは大地をない震る魔術…なれば巻き込まれぬようしっかりと踵をつけなければ。狼の足元から小さな亀裂が走り、足を滑らせたのを皮切りに乾いた大地が〝噛み付いた〟。目にも止まらぬ抜刀を思わせる、絹を裂くような音を耳にしたかと思えば月を反射した刀の光が、線になって狼の首を斬つのを見る。鮮血はひび割れた大地に飲み込まれてゆき、畏怖を覚えてごくりと唾を飲み込む。…神への?それとも、あなたへの…?それは火津彌自身も掴みかねる事であった。…首を落とされ躰だけになった狼がどっと倒れこむと、続いて現れたもう一匹がそちらへ。こちらへ向かわずに同胞の元へと駆ける獣を見て、卑しい嫉妬の炎を燃やす。……獣の分際で居場所があるとでも言うのか、と。コートの袂をばさりと捌きながら手を挙げると、九尾がもう一匹へ向かってゆく。首筋に噛みつき、そこから炎が舞い上がる。ふさふさとした毛はよく燃え、もう一匹は大地にのたうち回った。獣の焼ける匂い。) 
火津彌 ◆ > …今、楽にしてやろう。(火津彌の一言を聞き入れ、九尾は腹へと爪を立てた。…そして、やがて動かなくなった。)……今のは、つがいだったようですな。狼というのは基本的に群れぬ筈ですから…。もう、大丈夫でしょう。お手を煩わせましたな。……刀花様、お願いがございます。火を消してくださいますか。(あなたの魔術ならば雨を降らせることなど造作もないだろう。焚き火と狼を交互にみやり、そう口にした。……できれば、この嫉妬の炎も。そんな願い、祈り、想いをのせて、夜は更けてゆく。)〆