この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

秘密基地

(レフィーネ&アッシュ)

レフィーネ ◆ > (…またすぐにここに来ることになるとは。つい昨日も訪れた路地裏――バッシュ、もとい、アッシュの露天。今回は”バッシュ”の捜索ではない。露天そのものに用があったのだ。レフィーネはうつむいてとぼとぼと歩きながらその露天にたどり着き、アッシュの姿を捉えるとぱっと顔をあげて駆け寄った。)……ア、アッシュさん。こ、こ、こんにちは。今日もここここにいたんですね!よ、よよよかった……。あ、あの、あの…変な事聴きますけど……こここってケーキとか…売ってます…?(少し涙目になりながらそうまくしたてるレフィーネの両腕の中には、何か紙に包まれた丸いものが抱えられていた。ケーキならば大通りのほうへ行けばいくらでも買えるが、どうしても手作りしたい理由がレフィーネにはあった。…今日が終わるまでに、どうしても。アッシュならばあるいは、教えてくれるかもしれない。この腕の中にあるものがどうしてこうなったかを。) 


アッシュ > 相変わらずというかなんというか。ボロっちい露店の中で暗い瞳を輝かせる事もなく、立ち尽くすアッシュ。だがその瞳はどこか焦点が合っていないようで、虚空を覗く様にぼう⋯⋯と斜め下を眺めていた。⋯⋯思い出すのは昨日の出来事。思い出す、というより〝ソレ〟で頭がいっぱいだった。旧友もとい⋯⋯浦舳、部下⋯⋯もとい、百騎長のレフィーネ。二人の事ばかり考えていて、何も手が付かない。どういった感情がそうさせるのか、アッシュには分かっていた、分かっていたのにどうしようも無いのが、酷くまた自分を嫌いにさせる。客が来ても反応が鈍く、慌てて返事をする事が多かった今日この頃だったが。───しの原因がやって来た時の反応は早かった。視界に映る、綺麗な翠色に明らかに反応を見せると、ぴくりと瞳を開いて。) 
アッシュ > 「⋯⋯っあ、ああ。⋯⋯レフィーネ。」((なるべく感情を少なめに。まだ俺たちは出会って間も無いのだから。そう意識しながら、すす、と視線の逃げ場所として下げた先には⋯⋯⋯⋯。⋯⋯なんだこれ。紙に包まれた丸いもの。訝しげに眉を八の字に歪めると、覗き込むように顔を少し近づけ、抱えられた何かを眺め。しかしそれが何なのか、アッシュには結局分かる筈もなく。瞳を閉じて軽く息を吐いてから、質問に対する回答を淡々と返した。)「ケーキは売ってないけど、頼まれたら作るぞ。材料は⋯⋯その、⋯⋯なんだ、家にしか無いし、俺の家で作るから時間は掛かるかもしれないが⋯。」((流石に家までバレてしまうのは⋯⋯。と若干言いにくそうにしながら、渋々といった様子で返すアッシュ。ちらり、とカウンターに視線をやれば、もう今日は売れ残りは殆ど無い。今から何をするかと言われれば、特にやる事も無いから、構わないには構わない、んだよな。と内心呟きながら、肩を揺らして。


レフィーネ > (あなたの返事を受けて、レフィーネは一瞬ぽかんとした。)…じ、時間が掛かるかもしれない…って、い、いい今からでも作ってくれるって……い言ってます?それ…(成る程。この話をするのは恐らくタブーなのだろうが、アッシュならば百騎長である自分がどの程度の給金を貰っているか察しもつくのだろう、金さえ出せば良いのなら話は早い…交渉はわかりやすく、一瞬で終わるものが好ましい。それがウェンディアでは美徳とされるからであり、レフィーネにとっても例外ではなかった。彼女は目を輝かせてあなたを尊敬の眼差しで見つめ直す。)な、なるほどっ。いいいいくらお出しすればよろしいでしょう?(マントの下に提げたポシェットから財布をとろうとして、抱えていた紙袋がころりと落ちた。ベシャッと音を立ててあなたの目の前に転がったのは、紙からはみ出てぺちゃんこに潰れた黒焦げの何かで……砂糖の焦げた匂いがしていた。) 


アッシュ > 「⋯ああ、少し時間掛かっても良いならだが。⋯⋯⋯⋯入用っぽいし、な。」((今すぐにでも作って欲しいという事なら、作る。ケーキなんて大方、誕生日とか、祝い事の時に贈るもの。態々俺の所に来たということは、他の店ではダメな理由があったのだろう。お菓子作りは得意ではある、と自負できるものの、流石にその道専門の人間より上手と言える程、自信がある訳ではない。⋯⋯可能性を予想するなら、桜祭りの時期で予約が埋まっていた、とかだろうか。普段から宝石の様な輝きを放つ瞳が心無しか、更に煌めいた様に見える。そんな眼差しで此方を見つめられれば、バッシュがまた瞳をすす、と動かしてしまうのも必然のことだった。)「そう⋯⋯、だな⋯。」((真面目な話をすれば、ケーキは少し高価なものではある。かと言ってコイツから沢山せびるのも。⋯⋯俺よりも一回りも下だし、⋯⋯元部下だし。都合の良い時だけレフィーネを昔と同じ扱いをしてしまって、思考を巡らせる。
アッシュ > そんな悩みを打ち破ったのは、目の前でぼとりと落ちた〝何か〟。思わず視線を其方に向けてしまい、興味のままに君の目の前でしゃがみこむ。⋯⋯⋯すると、鼻腔を刺激したのは、何処か懐かしい香り。騎士団時代にも嗅いだ事のあるもの。決して察しが良いとは言えないアッシュでも、すぐに気づいてしまう。はみ出しかけた黒焦げになった何かを、手が汚れる事も厭わずに紙の中に押し戻し。そっと手に取り抱えて、立ち上がると。何を思ったのか、ゆっくりと君に背中を向けた。)「⋯⋯教えてやるから、着いてこい。」((ぼそり、小さめの声で呟くアッシュ。───金は要らない、そう言ってしまうとレフィーネはしつこいだろうから。有無を言わさず、返事を待たずに、ゆっくりと歩き出し始めた。


レフィーネ > (腕から転げ落ちたケーキ…とも言えないそれを見て、レフィーネは固まった。ついさっきまでの光景が思い起こされる——。昼下がりのこと。ケーキを作ろうと思い立ったところまではよかったものの、レフィーネは初手から既に失敗していた。何はなくともケーキにはクリームが必須だろうとまずクリームから泡立て始め、その後に砂糖を入れ忘れた事に気付く。砂糖をそのまま入れてもじゃりじゃりと溶けないに決まっていると考え、少量の湯で砂糖を溶かしてからクリームに入れてみる。クリームは湯の温度でモロモロ溶けてゆき、ボウルの底に生暖かい白濁色の汁が溜まった。そこでパニックになったレフィーネは、クリームのケーキを作ることを諦め、スポンジがメインのシフォンケーキを作ろうと思い立つ。クリームの分の砂糖をケーキにふりかけてうんと甘くすればクリームは要らないはず。たっぷりの砂糖を入れた卵を泡立てて、小麦粉...多分小麦粉だろう。白い粉って大麦粉とかコーンスターチとか色々あってちょっとわかりづらいけれど……)
レフィーネ > ともかく、それを混ぜ込み、上から砂糖をたっぷり掛けて、最後に型に入れた液体を上から何度も落とし、しっかりと空気を抜いてからオーブンに入れた。...ちゃんと焦げないようにオーブンの前でしっかりと見張っていたのだけれど、生地にはちっとも膨らむ気配がないのに、上掛けの砂糖だけがチリチリ音を立てて焦げ始めて……。これはこれでカラメルのようでいいかもしれないと思いながら眺めていたら、あっという間に焦げたのだ。——回想終了。
レフィーネ > 失敗した理由を教えて貰うために、一応持ってきたそれを心の準備もなく見られ、何から弁明しようかと口をあわあわと震わせていると、あなたがすっとしゃがみ込み、手を汚すのも厭わずに拾い上げた。その〝ケーキになるはずだったもの〟を抱えると、何も聞かずに教えてやると言い、あなたは歩みだしたのだった。)あっ、ああありがとうございますっ!!百………(思わず昔の昔の呼び名が出そうになるのをはっと堪える。そう、あなたはこんな風に面倒見が良くて、頼れる上司でしたね。その言葉を胸の中にしまい、レフィーネはあなたの後ろを追いかける。)……アッシュさん! 


アッシュ > 「⋯⋯。」((言いかけたその呼び名を呑み込んで、ちゃんと言い直した事にアッシュは気づいているのだろうか。僅かに聞こえたのは、ふっ、と息を漏らす音のような声。笑みを零した様にも取れるソレだけの対応に留め、アッシュは歩き出して行く。軽い足音が後ろからこつこつ、と自分に合わせて付いてくるのを確認しては、歩幅を小柄な君に合わせて少し狭め、腕の中の紙に視線を落とした。抱える腕に力を込めすぎたのか、隙間から顔を出した黒い部分。人差し指と親指でパリッ、とその部分を千切ると、口へと運ぶ。口の中で軽く咀嚼して味わって飲み込んだら、失敗の理由は粗方予想はついた。⋯⋯ふと顔を上げれば、すれ違う人の多くが、訝しげな視線で此方を見ている事に気付き、すぐ様顔を伏せるアッシュ。片やボロボロのローブに身を包んだ怪しい人物、片や小柄で可憐な少女。仕方のない事ではあったが、どうもアッシュには応えたようで。暫くの間、何も言葉を交わすこと無く無言で街を行く2人。それは信頼故か、はたまた単に何を喋れば良いのか分からないだけか。少なくとも男の方は後者で。
アッシュ > 歩き続けていると、漸く見えてきた小道。やっと大通りから人気の無い場所へと逃げられる、と一瞬君に視線を向けてから、路地裏に入っていき。⋯⋯無言に耐えかねたのか、初めて口を開くのだった。)「⋯⋯悪いな、狭い道で。この路地裏の先なんだ。」((建物の隙間を縫うように張り巡らされた、暗がりの入り組んだ道。意識しなければ迷ってしまうような場所に、彼の家はある。寧ろ、そういった立地だから選んだというのも理由の一つ。バレにくいから。⋯⋯⋯君を連れて来ている時点でもう遅いのだが⋯不思議と。アッシュには、今のレフィーネを放っておくという選択肢は考えつかなかったのだ。そうこうしているうちに路地裏を抜け、小さな広場の様な場所に出る。何処かボロ臭いログハウスの様な外見をする家がそこには建っていて。鍵すら掛かっていないらしく、真っ直ぐ玄関へと歩を進めるとそのまま扉を開き。迎え入れるように扉を片手で抑えたまま、君が入ってくるのを待った。)「⋯⋯⋯⋯すまん、汚い場所で。」


レフィーネ > (アッシュのリードについていくようにしてトコトコと歩く。急がなくても追いつく心地の良いペースで、レフィーネはあちこちに目をやりながら暫しの散歩を楽しんだ。軒先のプランター、石垣に生した苔...道は少しずつ複雑に奥まって行き、建物の密集した場所でありながら苔や雑草の多いのが人通りの少なさを仄めかしていた。狭い路地で悪い、と声を掛けてきたあなたに首を振りながら返事をして狭い路地を抜けると、土の匂いに心が浮き立った。……少しだけ田舎の谷を思い出す広場。木造の質素な小屋がちょこんと可愛らしく建っていた。)わ………す、素敵な…ところ…。ここは、ア、アッシュさん、あなたの秘密基地ですね?(玄関へ向かい扉を開けながら、汚いところですまん——なんて、またそんなことを言うあなたに満面の笑みを向けて。) 
レフィーネ > お邪魔します。(家の中に足を踏み入れ、きょろにょろと周りを見回す。狭くて古めかしくて……なんてステキな所!)で、ででは、よろしくおねがいしますっ!あ、あああの、材料とかっ、何があるかわわわかりませんし、何を作るかはお任せしても、い、いいですか?私はシフォンケーキを、つ、つ作ろうと思っていたんですけど、ア、アッシュさんが教えてくださるなら、な、ななんでもいいんです。お花ならいくらでも出せるので、お花のケーキとかでも……ふふ。(レフィーネはまた、小さい笑みをこぼした。アッシュと、一瞬にしてお気に入りとなったアッシュの〝秘密基地〟に向けて。)


アッシュ > 「いや⋯⋯きたな⋯、⋯⋯っ、とは違うかも知れないが⋯、その、古くさいだろ。」((〝汚い〟、そう言いかけた言葉を直ぐに飲み込んだ。レフィーネは、自然が好きだったから。二度も汚いなんて言ってしまったら、お前の好きな物をそれこそ汚してしまう事と同義であったから。⋯向けられた花が咲くような笑み。眩し過ぎる表情から逃げ出した瞳を開かれた扉に向けて。君が入ってきたのを確認すると、静かに扉を閉めた。蝶番が酷く軋む音が、この借り屋の古臭さを感じさせるだろう。きょろきょろと辺りを見渡す君、その視線が自分から離れれば、食材やら材料が仕舞われているタンスに歩を進め、卵と小麦粉など材料を幾つか取り出し、木の机に乗せたなら。───突然ぼろぼろのローブに手を掛けた。)
アッシュ > 「⋯⋯ん。⋯それなら、シフォンケーキにしよう。⋯⋯っと。」((流石に汚れたローブを着たまま料理はしないらしく。脱ぎ捨てたローブを部屋の隅に放ってから、掛けてあったエプロンを手馴れた動作で身に付ける。初めて君に見せた素顔は、その瞳以外は昔と何も変わらない。⋯⋯〝バッシュ〟と瓜二つの男がそこに居た。腰の後ろでエプロンを結びながら、ちらり、と君に視線を向けてから。アッシュは君と出会ってから何度目かとも分からないミスを犯してしまう。)「花なら、そうだな。⋯⋯すみれは定番だけど⋯時期でいえば、桜、か。お願いしてもいいか?」((⋯⋯アッシュは君の魔術を知る由もないのに。ついさっき君が自然を愛していた事を思い出してしまったからか、特に自分のミスに気づくことも無く。結び終えたエプロンの裾を正していた。


レフィーネ ◆ > (きしみながら扉は閉じられ、レフィーネが勝手に感動している間に手際よく材料を取り出していたあなたへ、はっと向き直る。)…ああ、ありがとうございまっ……(エプロンを身に付けたあなたを見て息を飲む。”アッシュ”として出会ってから、ずっとフードを被っていたので見えなかった顔を改めて見つめる。……少し、痩せただろうか。髪も伸びた気がする。髪の影に隠れた瞳はレフィーネから逃げるようにして、見つめさせてはくれなかったが。……その微細な変化は”アッシュ”だからと言ってしまえばそれまでなのだろうが――そこには、笑ってしまうくらいにそっくり半年分、時間を刻んだ”バッシュ”が居た。)……と…そ、そ、そうですねっ!わわっ、分かりました!(動揺したままアッシュに背を向け、手近にあった桶から少し汲み置きの水をすくいとる。桶の中に手を入れ、呪文の奏上を……。)
レフィーネ ◆ > 天地(あめつち)よ、春の氣よ、大いなる太陽よ。一木一草の生命に汝(みまし)の眼差しを。われ、冀求する。”彼の者”に相応しき、東の花の可憐を…。さくら、さくら、いま芽吹け。(いつもの、古い谷の童歌のようなものとは違う、少し変わった旋律。桶の中で手を開くと、枝のない桜の花が一輪、二輪と、まるで木からそのままはらりと落ちたかのように水の中に沈んでいった。)…ここここ、これを使ってください!(どうしてかどこかバツの悪そうな表情でエプロンの裾を正したりしていたあなたに桶の中を見せる。それからアッシュの言葉どおりシフォンケーキは手際よく仕上げられ、レフィーネはその手順のすべてが自分と違うことに驚きながらも、少し見栄をはりたくて知ったふりをした。)
レフィーネ ◆ > …あ~。そそそ、そうですよねぇ~。そそそそそそそそうやってやりますよねぇ。うんうん、あ~でも、べべべべ勉強になります。人によってちょ、ちょ、ちょっとだけ、ちちちちちちちち違うんですね?(いつもよりも吃りの多い喋りで、ごまかすようなお喋りを捲し立てる。そんなレフィーネの様子をわかっているのかわかっていないのか、あなたのケーキの作り方はゆっくりとしたわかりやすく、優しいものだった。……ほどなくして焼きあがったシフォンケーキの上部に、アイシングと桜の花を彩るのを手伝いながら、レフィーネはお礼を口にした。)……あ、ありがとうございます…。間に合いそうです。……ほ、本部に、ま、まだ、居るといいな…。(そう、ひとりごちながら。) 


アッシュ > ⋯⋯気付かないふりをしてくれたのだろうか。レフィーネは俺の間違いに何一つ踏み込んでくる事は無く。黙って綺麗な花を咲かせてくれた。ただ、ケーキの作り方を教えている間は、いつもより吃りながらも見栄を張っていたが。レフィーネが気付かないふりをしていたのだから、俺も気付かないふりをしてあげようかな。⋯⋯そんな気持ちから、どれだけ君が知ったフリをしても「⋯⋯まあな。」なんて短く返すだけに留めて。それが優しさと聞かれれば首を傾げざるを得ない所ではあるが。そんな穏やかな時間を過ごしていくと、古い木々の匂いに満たされていた秘密基地には花のかぐわしい香りと、砂糖の甘い香りに満たされていく。花の飾り付けだけは上手なレフィーネに少しだけ感心しつつ、時たまここの方がいいかな、と思う事はあっても。⋯⋯これは俺ではなく、レフィーネから知らぬ誰かに贈られるものであるから、余計な口出しをすることは無かった。)
アッシュ > 「⋯⋯そうか、なら良かった。⋯⋯⋯⋯間に合いそうに無いなら、早く持っていってあげるといいよ。」((飾り付けを終えると、独りごちる君の言葉を拾ったのか。部屋の隅の物入れから、露店で売る時に使っている小さな箱と紙袋を取り出し。ケーキを簡単に包装しながら短く返す。崩さないようにそうっと、それでいて手慣れた様子で紙袋の口を軽く折り畳んで綴じると。レフィーネに両手で抱えて差し出した。)「⋯⋯悪かったな、付き合わせて。⋯⋯だけど、ちゃんとお前が作ったケーキだから。金は要らないぞ。」((飾り付けを含め、簡単な作業を教えながら君に手伝わせたのを理由にお代は要らない、と付け足しては、〝ほら、居なくなる前に。〟と有無を言わせぬ表情で、差し出した手をもう少し伸ばし、ケーキを君の胸元に押し付けた。


レフィーネ ◆ > (”売り物”みたいにきれいな桜のシフォンケーキ。自分一人ではこんなに上等なものは作れなかっただろう。…白く小さい花が上品で凛とした印象のこれは、あの人に贈るのにぴったりな見た目をしていた。――浦舳。尊華人の見た目をした密偵。ウェンディアにも桜はあるが、もっぱら食用のサクランボとしての印象が強い。しかし尊華には至るところに桜があり、こよなく桜を愛しているのだと聞く。…優れた文化に出会う時、戦士は二通りの反応を表す。"こんな国を侵略したくはない"と思うか、”優れているからこそ手に入れたい”と思うか……。レフィーネはたしかに尊華に咲く花々に好意的であった。しかし、百騎長であることが答えかもしれない。あるいは、彼女にとって戦いとは単に自己実現に始終するものであるのかもしれない。……あなたの手によってきれいに包装をされたケーキを押し付けられるようにして受け取る。「浦舳さんが行ってしまうから、あなたも一緒に…」そんな言葉を思い浮かべながらも、きゅっと口を結んだ。アッシュは騎士団に近寄ることはないだろう。少なくとも、今のところは。) 
レフィーネ ◆ > …おおおお金、払わせてくださいっ。…た、ただなんてダメですっ!(相手が歳上だろうと関係ない、レフィーネはいつだってそうして食い下がってきた。だけど今は確かに押し問答を時間がないのも事実で…。ひとつの案が浮かび、そして口にする。)……じゃ、じゃぁ…次は、ア、ア、アッシュさんのために焼きます、ケーキ!おおお教えていただいたからっ、こここれでもう、シフォンケーキは作れますしっ!…そ、その時にお金も!……では、ほ、本当にああありがとうございました!(にっこりと笑って、あなたの言うとおりに踵を返す。返事は聞かなかった。「お金は本当にいらない」と言われかねないのを解っていたから。あなたも、いつだってそうだったから。果たして彼女が次に焼くケーキがどんな色をしているのか。それも、"神のみぞ知る"、であろう。)


アッシュ > 「いや⋯⋯」((君の想像は⋯⋯当たっていた。言いかけた言葉を遮る様に君が呪文を唱えなければ、きっとバッシュは「要らない」の意を宿す言葉を口にしていただろう。君の紡いだ魔術は確かにアッシュの言葉を封じ込め。返事を聞かずに飛び出していった後ろ姿に、アッシュはどこか名残惜しそうに手を伸ばす事しか出来なかった。ギィ...と音を立てて閉まる扉を見つめて、力なく下ろした腕。追い掛けて何かを言えば間に合ったかも知れないけれど、アッシュはそのまま君を見逃す選択を選んだようで。暫くの間、すっかり静かになり、君の残り香が僅かに漂う部屋で立ち尽くしてから。部屋の隅に退けてあった「失敗作」を包む紙を広げて。)「⋯⋯⋯⋯ん。」((指で摘んで口に運んだ〝ケーキ〟はやっぱり、お世辞にも美味しいとは言えなかった。)「⋯⋯⋯⋯次は、もう少し美味しいのを作ってくれよ、レフィーネ。」((⋯⋯美味しくはない筈なのに、アッシュの表情は穏やかに弛んでおり。結局地面に落ちて汚れた部分以外を残さずに食べてしまったのは、単に食費を浮かす為か。それとも───)〆