この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

出会い

(浦舳&レフィーネ)

浦舳 > (ウェンディアに一時帰国していた浦舳は、王都の城下町へ赴くと、その喧騒……人や店、町全体の浮かれ具合に面食らっていた。これはどうしたことかと頭を捻ると、すぐに思い当たる。3月――花祭りの季節ではないか。やたら懐かしい感じがするのは、昨年は潜伏先の尊華で過ごしていたからだろう……もしかしたら一昨年もそうだったかもしれない。)あら……失礼。(すれ違う人と肩が触れそうになり、さっと身を引く。……突っ立っていてもしょうがない。人混みは好きではないけれど、久方ぶりの花祭り。……来年、目にすることができるかどうかも分からない。少し見物していこうかしらと、往来の激しい中央通りに一歩踏み出した。ウェンディア聖騎士団の制服、そのマントのフードを深めに被り、尊華の顔立ちを隠しながら。)

レフィーネ > ……うーっ。(せっかくの花祭りなのに仕事だなんて!レフィーネは心中で独りごちた。聖騎士団は、騎士修道会の延長上にあるという性質上、公私共に聖騎士である事を求められる為はっきりした休みというものがない。逆に言えば仕事中でも花祭りに来られたというのは幸運と思うべきか…。しかし、哨戒の持ち場を離れる訳にはいかないため、飴細工一つ買えないのはまだ精神的に幼い部分のあるレフィーネにとってなんとも辛いものだった。誰か聖騎士団の人が通ったらおねだりしよう。それくらい許されるはずだ…そう思っていると、ちょうどよく目の前を通り過ぎる灰色のマントが目に飛び込んできた。)…あっ!待ってください、あああの!(フードが邪魔をしてあまり顔がよく見えない。少なくともその女性は、顔見知りではないようだった)…ウ、ウェッ、ウェンディアッ、聖騎士団の百騎長、レフィーネです!聖騎士団の方とおおおおみうけしますが!哨戒ですか?おおお互い大変ですよねっ!(まずは世間話から…。おねだりにもテクニックというものがあるのだ!レフィーネはこころの中でそうつぶやいた。)

浦舳 > (少し道を歩いただけで、花と菓子との甘い香りがあちこちから漂ってきて……充満している。目に飛び込んでくるのは、色とりどりの生花を始め、花を模した飴細工やら焼き菓子やら……干菓子はともかく、生菓子まである。それは衛生的に大丈夫なのかしら……そんなことを考えつつ、さっさと足を進める。それらは全て物珍しくとも、浦舳にとってあまり興味の惹かれる品物ではない――十年も前だったら話は別だろうけど。)……、……?(そんな時、騒がしい中ではあるが、声をかけられた気がして立ち止まった。少し視線を下げた所にいた人物――聖騎士団の制服を身に纏った少女は、やはり浦舳の姿を捉えていたらしい。)
浦舳 > 百騎長……殿?(無論、存在は知っていたが、こうして相対するのは初めてだった。……吃りの激しいこの少女が、そうなのか。何か、焦っているのかしら……?面倒事に巻き込まれるのは御免なのだけれど……。そう思いつつ、本当にこの少女が上官であるならば、捨て置くわけにはいかない。そして……状況からして、恐らく本当なのだろう。)ええ――聖騎士団の者です。お目にかかるのは初めてですけれど……。百騎長殿自ら哨戒されているとは……お疲れ様でございます。(そう言って頭を下げる。……足を止めておいて良かった。)

レフィーネ > (灰色マントのフードを深く被ったその女性はレフィーネの姿を捉えると丁寧に挨拶をし、お辞儀をした。レフィーネはお辞儀の代わりに自慢の全力スマイルを返した。)…おおおお、おつかれさまですっ!は、花祭りなのにおおお仕事だなんて、ちょっとがっくりですよね!おおお花の、おっ、贈り合いなんかも、期待できそうにないですしっ…!に、にっ、匂いばっかり芳しくって、生殺しっていうか…!お、お、お菓子の一つでも食べられたらステキなんですけどね!わわ、私は卵白のクリームを、ば、ばらの形にして焼いたのがとっても好きなんですよっサクパフカリって感じで!あ、ああ、甘いものはお好きですか?(吃りが邪魔をしながらも、一人でぺらぺらと喋り続ける。以前のレフィーネならば、吃りを気にしてこんなふうに誰かを会話を楽しむ余裕などなかった。必要最低限の吃りづらい単語を選んでは発し、常に受け身だったように思う。そんなレフィーネを変えたのもやはり聖騎士団に他ならなくて、聖騎士団の人間というだけで彼女にとっては愛想を振りまくのに値するのだった。)

浦舳 > (レフィーネの弾けんばかりの笑顔を目の当たりにして、浦舳は考えを改める。彼女は……焦ってなんかいない。単に、……吃音者なのだろう。“歌姫”であるという噂は知っていたが、それは聞き及んでいなかった。)え、ええ……はあ。(相槌を打つ間もないほど、矢継ぎ早に繰り出される彼女の言葉。それらを聞き漏らすことのないよう懸命に耳を傾け、……意図を察した。彼女は百騎長と言えども……一人の少女に過ぎないのだ。)甘い物は……そうですね、嫌いではありません。(受け答えをしつつ、メレンゲ菓子の店が手近にないか、通りを見渡す。……ちょうど、自分が彼女くらいの年の頃であったなら、と思いを巡らせていたのだ。彼女が浮足立つのも、理解はできる。)百騎長殿。恐縮ではありますが、少々お待ち頂けますか……すぐに戻って参りますので。(目当ての店を見つけると、浦舳はふらりと向かっていく。)

レフィーネ > (マントの彼女がその場を跡にしたのを見て、レフィーネは飛び上がりたくなる気持ちを抑えた。きっとお菓子を買ってくれるんだ!今日はなんて良い日。仕事中なのにこうして花祭りに来ることができて、新しい騎士団の人に会う事ができて、お菓子を買ってもらえる!レフィーネは遠くで屋台の店主に話しかけている彼女の背中を見つめ、にんまりと笑みをこぼした。…そうだ、待っている間にアレを。レフィーネはいつ戦闘が起きてもよいように携帯していた魔術書をこっそり開き、小さな声で呪文を詠唱ーもとい、彼女の魔術の旋律を口にした。)…”♫花よ 香りよ 法国に訪れし春の精霊よ 彼のものに相応しき輝きを 花弁の芽吹きを この旋律を いま聞き届けられたし”(古いわらべ歌のような単純な旋律。レフィーネの足元からまるでこっそりとひと目をはばかるように、可愛らしい若葉が萌え、それは紫とピンクのネリネの花となった。)…ふふっ。(レフィーネはネリネを手折ると、ピンクのネリネを自分の耳にかけ、紫のネリネを胸の前で抱いた。) 

浦舳 > (向かった先の出店には、花を象った様々な色と形のメレンゲ菓子が所狭しと並んでいて――まさに先程レフィーネが言った通りの、ばらの形のものもあった。淡い色合いのお菓子のばら達を見て、浦舳は少し考えた後に注文する。)すみません。この……ピンクと、黄緑のばら。一袋ずつ頂けますか。(店主から商品を受け取り、代金を渡すと、レフィーネと別れた場所へと戻る。)お待たせ致しました、どうぞ。それと……誤解やご心配はなさいませんよう。実を申しますと、私は仕事中ではありませんから。(任務中の百騎長に対し物を買って与えるなど、一般的に考えればあまりに出過ぎた行為だろう……しかし、あのレフィーネの様子では、そうせざるを得なかった。……もしかすると少し、郷里の兄弟姉妹達と重ねて見てしまったのかもしれない。そんなことを思いつつ、メレンゲ菓子が包まれた二つの袋を差し出した。)

レフィーネ > (戻ってきた彼女にお菓子の袋を手渡され、レフィーネは子供のようにきゃっきゃと無邪気に笑った。)わーい!あああ、ありがとうございます!ご、ご苦労でありますっ!(百騎長らしく、少し気取ってみせながら。左手にネリネの花を持ち替え、右手で一つ受け取り、紙で出来た袋の口を覗く。袋の中には絞り金で丸く絞ってバラを象った、綺麗なメレンゲの焼き菓子がぱんぱんに詰まっていた。...なんて美味しそう!)い、いい、一緒に食べましょうねっ!(自分の分というよりは、片手で2つは持てないレフィーネの代わりに預かり持っているというような出で立ちで袋の口を開けもしない彼女にレフィーネは声を掛けた。)それは、あああ、あなたのぶん!こ、ここ、これも。(左手に持ったネリネの花を少しだけ短く折ると、短い方を背伸びして彼女の髪に、残った方を彼女に手渡した。)あ、あああなたに、にに似合うとおもいました!ええっと...(名前を呼ぼうとして、名を知らないことに気づく。)

浦舳 > (はしゃぐ百騎長からややオーバーな労いの言葉を頂戴し、微笑ましく思う。しかし、フードを目深に被っているせいで、少し視界が狭まっていたからか。レフィーネが紙袋を片方しか受け取らなかったことで、ようやく気付く。紫の花……名前は分からないけれど、清廉で、可憐な。よく見ると、彼女の髪飾りも増えている。同じ種類の、色違い。)……えっ?(思いがけない誘いに、思わず言葉に詰まる。それだけではなく、紫の花。髪に差され、手渡される。一瞬の出来事に、待たせている間、どこかの店で買わせてしまったのだろうか?とも考えたが、そんな筈はない。それならばいくらでも自分で菓子を買えただろう――そこで思い出した。……我がウェンディア聖騎士団の百騎長は、植物を操る魔術師だと。)
浦舳 > ……。……浦舳、と申します。百騎長殿。(贈られた花を指先で撫でると、微かに笑みを浮かべ、名乗る。自分が尊華の字を持つ意味を、少女であろうとも百騎長ならば分からないわけがない、と思いつつ。)お気遣い下さり、ありがとうございます。けれど、私のような者とより……もっと相応しい方と、召し上がって下さいませ。(手の空いたレフィーネに、自分が持っていたもう一つの紙袋をそっと差し出した。)

レフィーネ > (フードの女性は、浦舳と名乗った。尊華風の響きに今までの行動のすべてに合点がいった。恐らく彼女は...密偵。フード越しに初めて目が合ったとき、こちらをちらりと見た切れ長の瞳がエキゾチックで、レフィーネは少しどきっとした。もうひとつの紙袋を手渡されそうになり、レフィーネははっとして言い返す。)だだだ、だめですよっ!う、浦舳さん。だって、花祭りですよ?(浦舳に渡された黄緑色のバラのメレンゲ菓子の袋を開いて、ひとつ手に取り、人差し指と親指でつまんで顔の前に翳してみせながら。)
/レフィーネ > 黄色のバラの、はっ花言葉を、おおお教えてあげますっ!ふふ...それはね!ゆっ、ゆっ、〝友情〟なんですよーっ!(ニコニコと笑いながら手に取っていたひとつを食べる。カシュッという音と共に甘くて軽いそれは口の中へふわりと溶けた。先程から浦舳は、上官にあたる自分に少し遠慮しているようだった。ならば逆手に取って、〝断ったら失礼〟な状況を産み出せばよいのだ。喋り方と見た目で侮られる事の多いレフィーネだが、案外中身は...打算的と言うには少し猪突猛進気味だが、レフィーネはレフィーネなりのロジックで動いている。)はいっ、どうぞ。もし、いい、忙しかったら、残りはおっおやつの時間にでも食べてください!

浦舳 > (自分の申し出を断り、諦めずに食い下がってきたレフィーネに、浦舳は驚きを隠せなかった。……何と天真爛漫な、けれども意志の強い少女なのだろう。半ば押し返されるようにして、差し出した紙袋を引っ込める。)百騎長殿……。(浦舳は少し困って眉尻を下げたが、目を閉じて一つ息を吐くと、重そうに口を開く。)……百騎長殿に於かれましては、哨戒任務中でございますね。休憩としても、少し長く時間を取り過ぎかと存じます。ですから……。(……そこまで話すと一転、今度は柔らかな表情で語り始めた。)……誠に恐縮ながら、提案させていただきます。私めもお力添えしますので、先に仕事を終わらせませんか。……その後、ご相伴に与らせていただきたく思います。……ふふ、哨戒って私、少し憧れていたんです。(相手の少女が百騎長という地位にあることを忘れたわけではない。……しかし、これぐらいの意趣返しは呑んでもらいたかった。)
浦舳 > (日が暮れた後。それでも無数の明かりが灯り、賑やかなの花祭りの町の片隅で。レフィーネと二人で過ごしたひと時は、浦舳にとって初めての花祭りの思い出となった。きっと、この日のことを忘れることはないだろう――彼女に教えてもらった、ネリネの花言葉と共に。)〆