この世界では、”言葉”が魔力を持つ。

神島攻城

(ゼペタル&咲夜&シャロム)

ゼペタル ◆ > (帝國襲来の報を受けて、ゼペタルはシントの小高い峰に居た。恐らくおめおめと船で来るのだろうが、ここならばまずは囲まれまい。……代わりの目になる仲間をすぐに掴まえられなかったのは痛手だが、散り散りになっている旅団の事だ、仕方あるまい。騒ぎになればわらわらと鴉のように、規律も統一もなく集まってくるだろう。……己はどうするか。戦うまでもなく、雷の一つでも落として船ごと難破させてやろうか。それは視力さえあればいとも簡単であった筈だろう。何はともあれ…雲を。ゼペタルは杖をくるりと回し胸の前で横にすると、左から右へ、ずるりとひと撫でした。”…ダー・ニト・ロロイ・シュクロズア。偉大なるヨズアの王よ、いにしえの神へと続く天窓となり給え。いにしえのヨズアの神よ、嵐を呼ぶ暗雲を、われ望む。” ) 
ゼペタル ◆ > 嵐の前の静けさに、高揚感を感じて身震いをした。戦いはいつ何時であっても、己を若き砌の刻へと引き戻してくれる。さあ、何人生き残るか、そして何人、ここまで這い上がってくるか。どよどよと黒い暗雲が立ち込め、空が唸る。)……どこからでも来るが良い、いまいましい帝國よ。(トン、と杖を地面に打ち付ける。長い髪と髭が、冷たい風に揺れた。) 


咲夜 > (隊をなして海上を整然と進む軍船の列。帆に描かれたるは帝國と王国の紋章。両国が共同出兵を行うのは有史以来はじめてのことである。氷上をゆくがごとき緊張感とは裏腹に、海風は穏やかで水軍旗も柱にもたれかかるようにして垂れている。帝國の優雅さを体現したかのような豪華な軍船の上で、咲夜はある報告を受けていた。周囲を自らの側近で囲ませながら甲板に置かれた椅子に一人だけ腰をおろして、鳩が届けた手紙を開く。『帝國軍、美虎を強襲。』その後に続く名前にため息を溢した。頭が痛い。思わず蟀谷を手で抑えた)やってくれた。……さて、どうしてくれようかねぇ。勝ってくれればまだいいが、負けでもしたらまずいことになる。(ちらりと王国船へと視線を投げた。千旗長のオウガは後詰として推参するという話は聞いていた、となるとちとまずいことになる。此方は大将から少将、佐官まで、つまり自分以外の上層部全員だ。これで勝てなければお笑い草だ。もし負けた場合……。思案を重ねるうちに風が強くなり、旗が音をあげてはためきだす。ぽつり、手紙の上に水滴が落ちた。けぶる睫毛を持ち上げて頭上を見上げれば雲一つなかった空に暗雲が垂れ込めている) 
咲夜 > 来たか――、ゼペタル。まさか老将を引っ張り出してくるとはね。お前たち、油断するんじゃないよ!王国船に連絡を、例のものを出しな!(急激な悪天候には覚えがあった。なにせ此方も軍に努めてから長いのだ。神島がヨズアに占拠された日のことも覚えている。あの時の屈辱を晴らすべく万全の体制を整えての出兵だったというのに)まったく、これだから敗戦の記憶のない餓鬼どもは。(椅子から立ち上がると手紙を千々に引き裂き、風に任せて海に散らした。長い髪が龍のごとく狂風に揺れる。側近がヨズアへの宣戦布告を通達したことを伝えて来るのを耳に、軍船から海へ何万もの壺が投下されるのを確認すれば、咲夜は呪文を唱え始めた。)ひとふたみ、ゆらゆらと……。
咲夜 > (地獄門から死者を呼び出す手間はかけない、今日のためにかき集めてきた。海底に落ちた壷は割れて中の遺骨を晒す。それはあの日、シュクロズアによって殺された帝國人のもの)いけ、お前たち!無念を晴らすんだ!(片手を神島に向けて伸ばした。広げられた小さな掌。時が止まっていたのは自分だけで、戦況はつねに動き続ける。海底に落ちた遺骨は立ち上がりそれぞれの武器をもつと神島目掛けて歩き出す。鍛え抜かれた兵士のように、整然と、そして海中を通り陸へと上陸する)あの時、死んだ帝國人と同じ数の首を持って来い。これは義に準じた報復戦である!


(ミナコイ側のバグにより、戦闘中のロルがごっそりと抜けております。)

骨牌/咲夜 > (ゼぺタルにとって不幸だったことは二つある。ひとつは、用いたのが豪雨ではなく霰だったこと。もうひとつは、他国ならば将軍に列せられるほどの優秀な魔術師であったことだ。霰は温度を下げて火を消すことには役に立つが、強力な魔力によって創りだされてしまったそれは生半可な炎では溶けることなくカツカツと油壷の表面を弾き、無数の罅をいれて火の勢いを強めるだけで、その進行を留めることもなく目標である屍兵へと降り注ぐ。弓兵隊の三分の二が霰によって壊滅する様をみて咲夜は唇を噛み締める。例え物言わぬ死者だとしても彼らも元は人、今は仏であり、敬われなければならない存在であると思っていた。それを操り、死というものを愚弄する立場にある香々夜の秘術を、誇りはすれども兵を戦わせるだけで見守るだけしかできない立場は気持ちの良いものではない。思わずゼぺタルは倒れたかと、視界を覆う霰の弾幕の彼方を見るべく視線を凝らし、眉間に深い皺を刻んだ。)   (4/9 18:44:15)
骨牌/咲夜 > ……やったか!(僅かだが霰の勢いが落ちた瞬間、気持ちが言葉となって現れていた。それだけ焦っていたということだが、すぐに勢いを増した魔術は残りの弓兵隊を壊滅せしめ、海の中で弓に矢を番えて待機していた予備兵にも被害を与える。このまま兵を温存していては完全に倒されるのも時間の問題。もはや上手く負けてやろうという思いは咲夜の中から消え失せており、ただ仇敵『黄昏のゼぺタル』の首をあげることだけに血を燃やす)全軍、進撃用意!――ひとふたみよ、ひとふたみよ、五六七八九十、布留部、由良由良止、布留部!(どれだけの兵が残っている、そう自分に問うが陣形は乱れ、詳しい数を把握することは難しい。これ以上壊滅させてなるものかと全軍進撃の号を飛ばし、自らは呪力を強化すべく呪文を唱えた。声が枯れ、喉が破れ、咥内に血の味が満ちる。だが、この嵐の向こうにいる貴方もまた同じ痛みを感じているのだろう。ならば泣き言はいうまい。再度、弓兵隊が矢の弾幕を形成し、先発隊である長槍兵のあとを追って、兵士たちが登山を開始した。   (4/9 18:46:55)
骨牌/咲夜 > そんな中、油壷は的確に港町を燃やし、弾丸はまだ比較的新しい建物の壁を破壊し、火の粉と瓦礫の雨を降らせる。なにが起こったのか分からず炎の中を逃げ惑うヨズアの民、ある者は煙に巻かれて膝をつき、ある者は火達磨になって海へと逃げ込もうとする。その民間人に向かって放たれる王国軍の魔術。王国兵は冷酷な帝國の策略に顔を背けながらも、次に狙われるのが自分たちかもしれないという恐怖から、あるいは、どうせ死ぬのははヨズアなのだから、という心の奥底にある歴史が植え付けた潜在的な優位性がヨズアの民を殺す。空には暗雲が垂れ込めているにも関わらず、町を燃やす炎によって今はまるで昼間のように明るい。今年の杏や桜は実を結ぶことはないだろう、熱風を受け散らされた花弁が空へと舞い上がる――っと、その時であった。天頂から滑空する不死鳥のごとき炎を伴った風が、丘から海へと駆け下った。進軍していた兵士たちの幾人かが狂風に耐え切れず地面にたたきつけられ砕かれる。咲夜は黒い海の表面が盛り上がるのをみた、そして――、嗤った)   (4/9 18:47:07)
骨牌/咲夜 > 今日ほどお前が盲目であったことを感謝した日はないよ、黄昏の! 我らは一兵とて陸に上がってはいない!(津波が起きたら沖に出ろ、漁師たちはそう言い伝える。これで上陸していたのが屍兵以外の生きた魔術師であったら津波による被害は免れえなかっただろうが、幸いにも両軍には陸地に近付かないよう命令を出してある。高さにして10メートルを超す大波が舩を襲い、何隻かは耐え切れず船体を横転させるがそれも軽微なものだ。山頂へと到達した長槍兵たちは暗い眼窩で、ひとり孤独に戦う貴方の姿を捉えると静かに得物を前に突き出して突進した。そんな屍兵のなかで先陣をきるひとりだけが肉を纏った屍の兵士だった。貴方はその顔に覚えがあるだろう。霰に潰された柘榴のような唇で、伝令兵は『咲夜様、万歳』と呟いた)   (4/9 18:47:18)


〆鯖/ゼペタル ◆ > (風により炎は勢いを増してゆくが、雨を伴わない暴風が津浪を起こすことができたかまでは盲目のゼペタルには解らず、歯噛みするの文字通りにぎりりともどかしさを噛み締めた。敵を上陸させない為にあえて消さず泳がせた炎は煙となり、いよいよ峰の上へ這い上がる。ゼペタルはローブの裾を口に当てて眉を顰めた。シントの民の逃げ惑う声も、もはや幻聴なのか本物なのか解らなかった。……すぐにでも消すべきか。己の魔術があれば雨を降らせるのは簡単。……しかし、奴らが上陸すれば船を転覆させる事はできない。奴らが船の上に居る今が唯一の勝機だと言うのに……。ゼペタルは迫られた決断の重みに震え、そして杖を握りしめた。)……”…ダー・ニト・ロロイ・シュクロズア。偉大なるヨズアの王よ、いにしえの神へと続く天窓となり給え。いにしえのヨズアの神よ、全てを洗い流す豪雨を……われ望む。”(あまりにも苦しい決断。勝てた、勝てる戦だったはず。己を蝕む闘争力に自身を取って代わられる程の遣る方無い憤懣が鼻孔を通り抜けた。それでも――シュクロズアなら、そうしたであろうから。雨は夕立ちのように降り注ぎ、やがて豪雨となる。)   (4/10 15:45:44)
〆鯖/ゼペタル ◆ > ……く……そ……!!おのれ、おのれっ……!!(未だ消えぬ煙と共に屍兵が峰を登る。先程の弓兵が霰ごときで散らす事が出来たのは地の利があっての賜物であるが、霰から雨に変わった瞬間、その侵入を許してしまったのだ。かたかたと鳴る音は幾多にも重なり、禍々しい程の音……もはや形容する事の出来ない地獄のリズムを奏でていた。肩の痛みを庇いながら杖を振り回し、稲妻を呼ぶ呪文をまさぐる。…その時だった、ゼペタルが耳にした声は、ついさっき殺したはずの伝令兵。)……な……ぐ、あああっ……!!(刹那の油断、そして伝令兵が地面から拾い上げた折れた矢がゼペタルの脇腹に突き刺さった。その場に倒れ込み、杖と足とで伝令兵を弾き返そうと試みる。しかし、老いたゼペタルと不死なる仏と相成った屍兵の組付きでは、力の差は歴然だった。)   (4/10 15:45:51)
〆鯖/ゼペタル ◆ > ……く、ああアァ゛ッ……咲夜……はぁっ、はぁあっ……!!(死物狂いで杖を撫で、音と閃光が峰を貫く。稲妻が命中しなくともその衝撃だけで、骨の兵は怯んだであろう。この肉を纏った伝令兵を除いては。伝令兵は容赦なく次なる一手を喰らわせる為、ゼペタルの脇腹に刺さった矢を引き抜く。)……ひ……は……っ…(声も出ない程の痛み。ゼペタルは迫りくる死を見つめ、色あせた灰色の瞳を開眼させた。『……ああ、このシントで殺して下さるのか、ヨズアの神よ……感謝する。』)   (4/10 15:45:58)

咲夜 > 雨、か……終戦だな。(船の揺れが鎮まったかと思うと車軸を押し流すような大雨が降り注ぎ始めた。それはヨズアが流す悔し涙にも似て、天をも焦がす紅蓮の炎が徐々に鎮まり、黒煙が名残惜しげに棚引くのを見て、咲夜はぽつりと呟いた。水を擦った髪が重い。手足に纏わりつく服が鬱陶しい。ごほりと喉から溢れ出した咳を掌で受け止めると指の間に血が滲んだ。言葉による戦いか。咲夜は瞼を伏せると、再び呪文を唱え始めた。それは海に残った僅か2千の兵に伝わり、彼らは一列に並ぶとその身をもって海と陸とをつなぐ橋を架けた。部下の制止に従うことなく、軍服の裾をはためかせ、咲夜は欄干をひらりと飛びこえた。香々夜の秘術は生命を操る。なればこそ、丘の上で消えかかる朝焼けに滲む星の煌めきのようなゼペタルの魂の色を見ることができたのだ。丘を照らした閃光とその輝きとではいったいどちらがより眩しかっただろう) 
咲夜 > ……ただでは殺すなよ、その首はわたしが取る。(その躰は暴風にも傾ぐことなく小さな白い影となって海上を渡りきると、遺骨の散らばる丘を残りの兵士たちを引き連れて登頂し、その場所へと辿り着いた。屍兵たちが主の到着を知り、頭を垂れる。初めて見合うその男は、地面に倒れ伏して息も絶え絶えかと思いきや、目に闘志を燃やし、満身創痍でありながらもしっかりと己の二本の足で立っていた。足元に広がる黒い影はすべて男の躰より流れ落ちた血潮、この地で血を流すことが出来るのは彼ひとりだけなのだから言うまでもない。常人ならば疾うに気をやって当然だというのに、明日をも知れぬ老人の身で、まだこの咲夜の前に立つか。思わずそう吐き捨てたくなったが、己の激情を押し殺して、優雅に唇を綻ばせると、腰に差した剣を鞘ごとはずし、両手でトンっと地面についた) 
咲夜 > ……勝負あったな、黄昏のゼペタルよ。シュクロズアがこの世に現れてから30年あまり、お前様との因縁も随分と長くなってしまいました。しかし、この手でヨズアを滅ぼせたことは幸運です。こうして互いが相見えるのは、これが最初であり、最後になるでしょう。なにか言い残すことはありますかな、わたしは尊華帝國の中将官、香々夜家の咲夜。挨拶など不要の仲ではございますが、冥途の土産に覚えてゆきなさい。(カチャリと音を立てて鞘より刃が引き抜かれた。魔術による豪雨は留まる気配を見せないが、まるで天がその時を待っていたかのように雲間から月が姿を現した。背中に名を背負い、高く掲げた刃が、月光にキラリと輝いた。) 


シャロム > (巻き上がる焔が街全体を熾と成さしめ、狼狽え遁走する民衆の悲鳴と、崩落する建物の轟音とが入り混じる。その狂騒は聴覚を麻痺させるに十分で、夢見心地でさえあった。悪夢甚だしいその光景を眺めるだけの猶予がないことを、霰に代わって降り頻る豪雨が物語っていた。人波に逆らうようにして、火種の源、台風の目である峰へと駆ける。登り行くにつれ、次第に濃度を増す煙が喉を蝕み、意識をも朦朧とさせた。逸る思いとは裏腹に、その頂の何と遼遠なことか。咳く度に微かな鉄の味が口内に広がっては鼻腔へと抜けていくが、すぐに煙塵の臭いで溢れ、塗り替えられていく。それでも足を止めることだけはしなかった。走り、灰褐色の風を切り続けた。篠突く雨によって殆どの音が届かない中、稲光が瞬き、小さな山嶺が鳴動する。――嗚呼、間に合ってくれと願った。彼の子がいれば一飛びだろうに、と幾度脳裏に過ぎったことだろう。シャロムが漸く踏破し、丘陵へと辿り着いたその刹那、差し込む月明りに鋒が煌めいた。
シャロム > 何かを拝むように倒れ伏す人影がゼペタルであると、今にその刀剣に止めを刺されようとしている情況を理解するが早いか、咄嗟に身に着けた腕輪と指輪とを掻き撫でる。“ダー・ニト・ロロイ・シュクロズア。王にして畏友なる君よ、開闢の刻の神と縢りて。罪咎阻み吾人護りし、灼熱の郭を築き上げん。”立ち所に熱気による無形の檻が編まれ、勝者と敗者とを隔てた。腕が振り下ろされれば旧友の命は間違いなく奪われていた、その寸前、間一髪で。詠唱なく突如放たれた魔術に、その剣の主は反射的に怯んだことだろう。その間隙を縫って駆け寄れば、その壮絶な有様を確と認めた。)――ゼペタルっ!(振り絞られた嗄れ声でその名を叫ぶ。それは、自身の信念から外れた行動に出たことによる躊躇いよりも、未だ嘗て見たことのない、襤褸と化した老友の惨状への衝撃が勝ったことの証左だった。血と砂利に塗れ、濡れそぼったゼペタルを素早く抱え込む。凶夢に魘されるが如く呻く彼の濁った鮮血は、自身が作り出した熱の障壁によって忽ち乾きつつあった。
シャロム > 振り乱された髪が血腥く頬に張り付くのにも構わず、肩を貸して立ち上がらせようと試みる。辛うじてそれを遂げると、熱波の向こうに佇む仇を睥睨した。)……降伏だ。(そう一言、今までになく低く掠れた響きが伝わるや否や、もう一度腕輪をなぞろうと指を伸ばす。しかし、ゼペタルを支えながらでは思うように触れることが敵わない。小さく舌打ちを漏らすと、凡そその体を成さない声で呪文を唱え始めた。)ダー・ニト・ロロイ・シュクロズア……王にして盟兄たる君よ、旧き神との絆となりて……彼と此の境に、焦がるる凍てるる庵を結ばん。(――苦痛に喘いでいるのみとしか捉えられずとも無理のない、ただ吐き出されただけの息の音は、ヨズアの神に、シュクロズアに聴き入れられたのだろうか。一つの塊となった影は漂い出し、徐々にその揺らめきが増していく。……残された熱が霧散する頃には、二人は陽炎の彼方へと姿を晦ませていった後だった。)〆